第11話
展示品のブラッシュアップが終わるまでもう少し待って欲しい、というので一度東京に戻っていの一番に近くの入浴施設へ飛び込んだ。
近くの入浴施設をスマホで探して体を洗うと、とにかく汚れが大量に湧いてくる。
「2~3日ちゃんとした風呂入れてへんからなあ……」
金羊国には公衆浴場がないので水浴びや濡れタオルで拭うのが精いっぱいだ。
大使館やトンネル工事の人たちは長期滞在前提だから自前で風呂を整備しているらしいが、俺のような短期滞在者はこうして定期的に日本へ戻るほかない。
肩まで熱いお湯に浸かりながら、この国の環境の良さにつくづくありがたみを覚える。
(でもそれって、めっちゃ恵まれてるってことでもあるんよなあ)
国によって当たり前は変わるという事を肌で感じたのは本当に大きい。
べたつく身体をお湯で流せるというありがたみを、今の俺は人生で一番感じている自信がある。
(風呂出たらコインランドリー行って、その間に報告書作って業務メールの返事書いて、あと何あったっけ……)
ぼんやりとこの後の予定を組み立てながら風呂の天井を眺めていたら、ちょっとのぼせかけた。
*****
風呂から出ると近くのコインランドリーで使用済みの衣類を全部丸洗いする。
パソコンを立ち上げるとバッテリーがそろそろ切れそうになっていて、急いで電源につなぐと無事に安定して動ける状態になる。
(スマホも充電しとこ)
そう思ってスマホを電源につなぐと、妹からラインが来ていたことに気づく。
ラインは昨日の夜に届いていたもので、メッセージはただひとこと。
『金羊国はどう?』
俺はスマホを手に取ると『割と普通のとこやった』と返す。
妹からはすぐに返事が来た。
『どこがどう普通なの?』
『景色はアフリカ辺りのあんまり金ない国とそんな変わらん、ただ獣人がいっぱい居る』
ついでに個人的に撮っておいた写真を2~3枚送ってやると妹は『ほんとだねえ』と返してくる。
更に妹から追加のラインが来る。
『姿かたちは違うけど異世界文化もなんとなく地球と似てるんだね』
せやなというラインスタンプを送ると、妹がそやなーというスタンプで応じてきた。
(これ、それなーって返せばええんか?)
しょうもないスタンプの応酬になるのめんどいなという一瞬の惑いを感じていると、妹が急に『そういえば』と切り出してきた。
『母さんから冷凍のクエ届いたから、帰ったらクエ鍋でいい?』
うちの両親は定年退職後を機に夫婦で母さんの地元である紀州田辺に引っ越したのだが、時々いろんなものを送り付けてくる。
クエ鍋は割と好きだし大変な出張のあとに食うならきっと最高に美味かろう。
『わかった』
ラインの返事をした後、思い切り伸びをして軽く息を吐く。
洗濯乾燥が終わるまでの50分でやれるだけの仕事をやってやろうじゃないか、家に帰れば美味しい紀州のクエが待っている。
「さ、がんばろ!」




