第10話
展示物のブラッシュアップが終わるまでの間もそれなりにやる事はある。
「紅忠金羊国支社長の河内です」
金羊国の都市から少し離れた場所にある建物の片隅で、どこか掴めない雰囲気の女性から名刺を受け取る。
目の前の女性が席を置く紅忠という総合商社は国内企業合同で出すパビリオンに参加しており、その展示に異世界の物品を置きたいという話を貰っていた。
それらの展示品候補を一応確認してきてくれと頼まれているのである。
「パビリオンの展示品とかも確認するんですねえ」
「色々確認する事がありまして……えっと、展示物についてなんですが」
「上から要望が出てたのは異世界産原油や鉱石のサンプルですね、広く物を集めて売ってますよってアピールらしいですけど」
「確認して大丈夫ですか」
「どうぞ」
差し出されたのは大きな段ボール箱で、それをゆっくり開けば小さな小箱がぎっしりと詰め込まれている。
その小箱のうちのひとつを開けてみると赤くて透明な六角柱の石が入っている。
下には新聞紙のような紙切れが緩衝材として詰め込まれ、蓋の裏側には採掘日と場所の記載されたカードが封入されている。
「そいつはこの国では赤色魔鉱石と呼ばれてる石ですね、水晶の一種っぽいんですけどその辺の違いはまだ調査中です」
「すごく綺麗ですね」
鉱物趣味は無いけれどこういう綺麗な石を見せられてしまうと感嘆のため息しか出てこない。
透き通った赤い石にしばらく見惚れていると「お気に召しました?」と聞かれてしまう。
「失礼しました、あんまり綺麗だったのでつい」
「まあ確かに綺麗ですよね、その上この世界じゃ金銀と同じくらい貴重な石でもありますから差し上げられないのが残念です」
「そんなに……」
鉱石を一旦戻し、他の石もおかしい気配が無いことを確認する。
そしてビニール袋に包まれたガラス瓶を一つ取り出すと、そこにはどろっとした黒い液体が入っている。
「これは?」
「異世界産原油の展示用サンプル品です、原油なんでそれなりに気をつける必要はありますけど地球産の原油と成分はほぼ同じですから特別気を使うポイントはありませんよ」
「へえ、初めて見ました」
この原油が日本の産業界にもたらした影響は大きい。
中東の情勢不安が起きるたびにガソリンの高騰が起きていた日本において、中東以外からの原油調達はエネルギー政策の重要課題であった。
しかしそれが異世界から安価で調達出来るとなり、少量ながら異世界産原油が日本へ入ることになったことで多少ながら値下がりが起きた。
「まだ輸出量は雀の涙もいいとこですけど、それなりに注目度は高いですから展示したいとうちのボスがいうもので」
「いえ、異世界産のものは今回の万博では目立つ展示品の一つですからどんなものでも出して欲しいです」
「万博事務局さんからすれば来客は多いに越した事はないですもんね」
カラカラと笑いながらそう答えてくる彼女になんとなく反論したくなって「それもあります」と答える。
「それも、というのは?」
「せっかく世界の垣根を越えて繋がった隣人ですから、お互いをよく知り合いたいじゃないですか」
ここに来たことで余計にそんな気持ちになってきた。
勇気を出して僕らの元へ歩み寄ってきた未知の隣人たちのことを世界に知らしめる、その第一歩を手伝えるのはけっこう光栄なことな気がしてきたのだ。
「……ま、それもそうですね」
彼女はそう言って軽く微笑んだ。




