スカートめくりマスターになりたい俺は寺の息子のスカートだけはめくれない
俺が通う男子校はイかれている。
毎月、女装デーがあり、男子生徒は全員、セーラー服を着るのだ。
「不安定なお年ごろの男子が暴発しないように、定期的に発散しないとね!」と校長が嬉々として考案したのだとか。
といって強制力や厳格なルールはなく、セーラー服を着たくないやつは休めばいいし、女装のしかたは自由。
とあって毛を剃ってウィッグをかぶり化粧をする本格的なのもいれば、単に学ランからセーラー服に着替えただけの素のままのもいるし、スカート丈もそれぞれお好みで。
野郎がスカートをはいたところで、みんな男の象徴をぶらさげているのには変わらず、それでも、たかが女装、されど女装、けっこう惑わされてしまうよう。
この日は授業をサボって、どこかでしけこむやつがあとを絶たず、毎時限ごとに教室の空席がちらほら、人気のないところでは、いかがわしい物音が聞こえることも。
ただ、スカートを脱ぐと魔法が解けるようで、翌日にはあと腐れなく、元どおりの関係になっている。
過ちを犯すにしろ「どうせ一日限定の関係だ」と割りきって気兼ねなく発散できるわけで、まさに校長の狙いどおり。
ただし発散のしかたも、これまた人による。
俺の場合は「在学中に全校生徒のスカートをめくってやるううう!」だ。
「エロの発想が小学生か」と呆れられるだろうが、いやいや、高校生になって全身全霊でスカートをめくるのは、たいへん興奮するし愉快極まりない。
異性でなく同性にするから罪には問われないし、性病にかかるリスクを負う行為に比べたらずっと健全だろう。
女装のしかたがばらばらばなら、反応のしかたもパターンがいろいろ。
大袈裟に悲鳴をあげるのもいれば、純粋に恥ずかしがるのもいるし、いかにも女子っぽく「もう!小暮のばかっ!」とかわいらしく怒るのもいるし、無反応で無視するのもいるし「俺のパンツは無料やないぞおおおお!」と全速力で追いかけてくるのもいる。
パンツもバリエーション豊富で、いつも着用しているだろう男物から、受けを狙ってのTバック、透け透け、女物のパンティー、ガーターベルトつき、ブルマなどなど。
いかつい柔道部員がレースつきのピンクのパンティーを着用という、ギャップに驚かされることもあり、スカートをめくると意外な発見ができるのも面白いところ。
今日も今日とて休み時間になるたび、スカートめくりの旅へ。
俺がスカートめくりに興じているのは知れわたっているので逃げるやつもいるが、陸上部の俊足には敵わず、どんどん撃沈。
予鈴が鳴って教室にもどり「はっはー!今日は調子がええなー!」と自分の席に座って高笑いをしていたら、隣の席の鎌田が「なあ、どうして清水のスカートはめくらんのや?」と聞いてきた。
「清水以外はクラスのみんな制覇したんに」と問い詰められて、とっさに誤魔化したり、おちゃらけることができず、目を泳がせてしまう。
清水は寺の息子で、さすがに髪を剃ってはいないが、坊主で眼鏡をかけ、坊さんっぽい雰囲気がある。
いや、仏っぽいというか。
無表情でもほほ笑んでいるような顔つきで、大人びて温厚、慈悲深さがオーラのようなもので滲みでているからか、そばにいるだけでやけに和むし、落ちこんでいるときは泣きたくなるし、疚しいところがあると、すがりついて懺悔したくなる。
十七才にして、すでに悟っているような、ふるまいをしつつ、年並みの男子高生トークもできて、下ネタもいける口「そら、きみ、やりすぎや。息子さん病気になるで」とどちらかといとツッコミ側で、たまに辛辣な物言いも。
やんちゃなほうの俺は、比べたらずっと楚楚とした清水と接点がないようで、そうでもない。
この年ごろの男子は危ういところがあり、遊びと暴力の境目が曖昧になることがある。
一時期、遊びと称して乱暴な扱いを受けていた俺は、でも「なんや、ノリの悪いやつやな」と友人に見捨てられなくて、道化を演じていたのだが、見かねた清水に抱きしめられたのだ。
「傷ついたなら傷ついたって口にしい、悲しかったら男でも泣いたってええんやで」と。
強く強く抱きしめかえした俺が号泣するのを、声が枯れるまで、寄り添っていてくれたもので。
以降、俺は清水を仏のように高潔な存在と見なし、煩悩まみれの糞野郎たちが汚そうとするのを追っ払うように。
そうやって清水の騎士をきどっていた俺が、邪な戯れをできるわけがない。
というのは表向きの理由。
ほんとうは、清水のスカートをめくったら、後もどりできない危険があるように思えるから。
ちなみに清水の女装スタイルは、学ランからセーラー服に着替えたシンプル系。
坊主も眼鏡も健在で、顔のつくりも男らしいから、けっこう滑稽なのだが、これが笑えない。
坊主のまま、すこしも飾らないのが潔いし、恥ずかしがったり、ふざけないで、いつもどおり粛々と過ごしているさまが凛々しく見えるし、似合わない女装をしても、やんごとないオーラーが霞まないから清楚な少女のように、俺の目には写るし。
ただでさえ、清水を欲目で見ているところ、スカートをめくって露になったパンツの種類、彼の反応によっては、パンドラの箱を開いてしまう気がしてならない。
「し、清水は恩人やから、こんな悪趣味なことつきあわせられへんわ!」となんとか抗弁したものの、スカートをめくられた第一号の鎌田は納得しなかったよう。
次の月の女装デー、休み時間になって早速、狩りにでようとしたら「大山ああああ!」と絶叫が耳をつんざいた。
ふりかえれば、鎌田と四、五人の友人が佇んで、その真ん中には背を向けて立つ清水が。
まさかと思えば、まさかのまさか「清水だけ、のけ者はかわそーやからなあ!」と笑いながら脅してきた。
「ちゃんと清水のスカートもめくってやらんかい!
お前がめくらんのなら、俺がめくってまうでええ!」
たかがスカートめくりだというのに、鎌田が裾をつまんだのを見て、清水の首にナイフを突きつけられたかのように思え「やめろおおおお!」と喉を潰さんばかりの叫びを。
はたからしたら茶番劇もいいところで、清水はどう思っているのか、背を向けたまま身動きせず、声もださないから分からない。
友人らは、そう力をこめて腕をつかんでなさそうだから「しゃあないなあ・・・」と呆れつつも、つきあっているのだろうか。
清水の心中をはかりかねてもやもやしながらも、どうすべきが考える。
俺以外のだれかが清水のスカートをめくれば、最悪の事態にはならなように思う。
このまま鎌田の餌食になってもノーダメージでいられる確率は高いわけだが、それでもいやだった。
清水のスカートをめくるのには、きっと人生を狂わされるほどのリスクがある。
だからといって清水がほかの男の手にかかるのを見たくはない。
悠長に葛藤する暇はなく、鎌田の手がスカートを持ちあげていくのを見ていられず「わかった!俺がスカートをめくるから、やめろや!」とつい待ったを。
一番はじめにスカートをめくられたのが、よほど屈辱だったのか「そーこなくっちゃ!」と鎌田は満面の笑みになり、どうぞどうぞとばかりスカートに手を差しだす。
にやつく友人らに見守られながら、鼓動を早めて震え、でも「やるなら思いっきりや!」と踏ん切りをつけて勢いよくスカートをめくった。
心の準備をするためにパンツの種類と反応にはいろいろなパターンを想定していたのだが、なんとお目見えしたのは純白の褌。
俺も鎌田も友人らも、まったくの予想外だっただけに口を開けたままぽかん。
いや、いくら寺の息子といっても、下着は現代風のものを身につけ、体育の着替えで見たときは変哲ない黒のボクサーだったはず。
笑うことも忘れて呆けていると、顔だけふりむけた清水が「朝、寺の仕事、手伝って遅れそうなったから、そのままはいてきてん。恥ずかしいわー」と飄々と告げたのに、俺たちはすっかり毒気がぬかれたもので。
「清水、なんか、わるかったな・・・」と鎌田と友人らは謝罪し、肩を落としてふらふらと去っていった。
俺もまた、必要以上に身がまえていた分、虚脱感がひどく、それでいて、いざ清水と対峙してどぎまぎ。
クラスのなかで清水のスカートだけ、めくらなかったのは、本人も気づいていただろうが、あらためてこの件について話すとなると、非常に気まずい。
「今のはなんや?すごい本気ぽかったけど」「どうして、そこまで俺のスカートめくりたくないん?」と詰問されれば、応えようがなく、恥ずかしいような、うしろめたいような。
相手に変に思われてもいいから逃げてしまおうかと、足に力をこめたところで、やおら清水がスカートを揺らし、歩み寄ってきた。
相かわらずの無表情でいてほほ笑んでいるような顔つきが、今は得体が知れなく見えて、金縛りにあったように動けなくなる。
とうとう目の前まできた清水はすこし背伸びをし、セーラー服のスカーフを引っぱって俺を屈ませると、低く囁いた。
「きみにスカートめくられるの期待して、毎度、褌はいてきたんに。
こんな横やりいれられたら台なしやで?」
最後のほう、笑い混じりの吐息をかけられ、ぞくぞくとして床に崩れてしまい。
見あげる清水はスカートから褌を覗かせながら、扇情的に笑いかけ「こんどはノーパンにしようかな」と冗談とも本気ともつかない一言をのこし、歩いていった。
その背中が教室に消えてから「やっぱ、あかんかったか・・・」と熱い耳を手で押さえて、深々とうな垂れる。
坊主でセーラー服を着て、男らしく褌を決めていようと、俺には彼が魔性の女のように見えてしかたなかった。




