赦し
カーナビから流れる番組がサッカー中継に切り替わる。
俺は軽く舌打ちをして設定をラジオに変更した。
夜の駐車場、荒い舗装を軽バンが進む。
疲れた目を擦り、スペースに車を差し込んだ。
大きく息をつき、エンジンキーをオフに回す。
車外に出ると、大きく伸びをして首を左右に動かした。
部屋に帰る気にはなれない。
駐車場の横にある自動販売機に立ち寄ると、コーヒーと迷った末、スポーツドリンクのボタンを押した。
公園へ足を向けると、街路樹が風に揺れ、首すじを涼やかな風が吹き抜ける。
日中はまだ暑いが、夜も深くなると過ごしやすくなってきた。
公園へ入ると、街灯がイチョウを鮮やかに照らしている。
木製のベンチに深く腰掛け、ドリンクを勢いよく飲み下す。
冷たい感覚が喉から胸に流れ、疲れた身体に水分が行き渡るのを感じる。
息をつき周囲を見ると、ベンチにサッカーボールがあることに気付いた。
立ち上がり、サッカーボールを地面に転がすと思い切り蹴り飛ばした。
ため息をつき、再びベンチに腰かけて天を仰ぐ。
空気が澄んでいるのか、多くの星が輝いていた。
足に何かが当たった感覚。
サッカーボールが壁に跳ね返って戻ってきたらしい。
ベンチに体をだらりと預け、星を見上げながらなんとなく足裏でボールを転がす。
渦巻いていた思考が次第に収束し、星空、清涼な空気、足裏の感触だけがこの瞬間を占めた。
体が引き出されるような気がして立ち上がり、リフティングを始める。
つま先、かかと、額と次々にボールが弾む。
心地よい集中が体を包み、時間を忘れて繰り返していた。
「すみません」
若い男に背中から声をかけられた。
「そのボール、返していただけないでしょうか」
ボールを少し高く蹴り上げ、手で受け止める。
「勝手に使ってしまって申し訳ない」
ボールを手渡し、息を整えながらドリンクを飲み切る。
ペットボトルをゴミ箱に蹴り入れると、俺はアパートへ歩き出した。




