若き頃の思い出【親指ペロNL編】
「ママー、この写真なぁに?」
「どれ…って、ああ。これは、ママたちが若い頃に撮った写真だよ」
「なんでママはほっぺにちゅーされてるのー?」
「えっとねぇ…なんか恥ずかしいけど、このお店でちゅーしたら割引券をもらえるっていうカップルフェアみたいなのをやってて…」
ーーー
「ちょっと、ニコくん! な、なんであんな…カップルでもないのに…」
「まあまあ、せんぱい。割引券もらえたんだからいいでしょ」
「そうだけど…」
だからと言ってあんな…人が沢山いる外でほっぺにき、キスとか…。
おそらく赤くなっているだろう頬があつい。手でパタパタと仰ぐと、ニコくんが
「せんぱい、顔赤いよー」
と、絶対自分が原因とわかってるのに、ニヤニヤ楽しそうな顔で私を見つめた。
ぎゅっと睨むと、誤魔化すように笑ってメニューを開いた。
「せんぱいは何にする?」
「うーん…チョコパフェにしようかなぁ…ニコくんは?」
「オレはいいや、甘いもの苦手だし。クーポン使い切っちゃいたくて来ただけだしね」
話している内に数分でパフェはきた。私は細く小さなスプーンでチョコアイスとコーンフレークをすくって、口に入れた。サクサクのコーンフレークと冷たくて甘いチョコアイスが美味しい。ニコくんはアイスティーを頼んだらしく、ストローを回す度に、氷のカランコロンという心地よい音がした。
丁度私が食べ終わったタイミングで、ニコくんが自分の指で口の端を差した。
「せんぱい、ここにクリームついてる」
私は焦って口の端を人差し指で触るが、クリームのような冷たくふわふわしたものは見つからない。
「かして」
ニコくんは私の手を取って、親指でクリームをぬぐわせた。咄嗟に拭こうと机に置かれたティッシュペーパーを取った、瞬間、ニコくんは私の親指をゆっくりと舐めた。
「に、ニコくっ!?」
周りの人たちも驚いたように私たちを見ているのだろう、すごく視線を感じる。
肝心のニコくんは呑気に口のまわりをペロリと舐めると、ストローに口を付けてアイスティーを飲んだ。
まわりを気にしないその様子はまさに猫のよう。唖然とする私の視線に気付いたニコくんは、じっと見つめ返して来た。
「にっ、ニコくん、チョコ苦手じゃなかったっけ…?」
恥ずかしくなった私は誤魔化すように話題を変える。ニコくんは私の問いに頷く。大丈夫なのかと不安に思い、聞く。
「苦手だけど…でも」
ニコくんはニヤリと、意地悪そうに笑って、チャームポイントである八重歯をチラリと見せた。
「せんぱいのだと美味しかったよ」
ーーー
「ママぁ…」
いつの間にか側から離れた娘にも気付かず、リビングから聞こえた娘の声でやっと我に帰った。
声のする方へ向かえば、リビングのソファで父親にもたれかかって寝てしまっていた。
まさか娘の寝言で気付くとは思わなかったが、2人ともよく寝ていて起こす気にはなれないので、まとめてブランケットをかけた。
ふと、あの写真のことを思い出した。また見られないようにしないと、なんて思って寝室に戻ろうとする。
なんだかあのことを思い出すと、ずっと翻弄されていたのが悔しくなった。私はソファで眠る彼の頬へ、自分の唇を寄せた。
静かなリップ音が恥ずかしくなって、急いで寝室に向かおうとすると、強く手首を引っ張られた。
「にっ、ニコくん…」
「アスちゃんからしてくれるの珍しいのに、なんでほっぺなの」
そのまま引っ張られて、唇を奪われた。
意地悪にニヤッと笑う彼にまた対抗心を燃やした私は、いつぶりかわからない、唇を自分から近づけた。
驚いて赤くなる彼に謎の達成感を感じて去ろうとする私を、彼はまた引っ張った。
ソファに引き込まれた私は、なんだかおかしくなって、そのまま寝てしまった。
そんな姿を、元々家に来る予定だった義姉家族に見られていたことを知ったのは、また別のお話。