番外編 お前は、何もしなくていい日
聖典再話の締切が重なり、アマーリエは三日ほぼ寝ていなかった。
机に突っ伏すようにして、原稿用紙を握ったまま眠る彼女。
その肩に、静かに毛布がかけられた。
レオンはため息をひとつだけついて、言った。
「……よくがんばった。
でも今日だけは、もう全部忘れて寝てろ。俺が全部やる」
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朝。
アマーリエが目を覚ますと、朝食が用意されていた。
焼きたてのパン、温かいスープ、湯気の立つお茶。
そして、レオンのメモがひとつ。
> 『目覚めたら何も考えずにこれを食え。今日お前は働いちゃダメだ。』
「……なにこれ、甘やかされてる……?」
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その後も、洗濯、片付け、書類の整理、すべてレオンが引き受けた。
しかもやけに機嫌がいい。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「おう。俺だって“旦那”だ。たまには恩を返させろ」
「恩って……そんなの」
「あるに決まってんだろ。何度お前の言葉で救われたと思ってんだ」
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夕方、庭に出たふたり。
アマーリエが膝を抱えながらぽつりと言った。
「私、ひとりで全部背負おうとしてたかもしれない。
でも、こうされると……もう、甘えたくなっちゃう」
レオンは彼女の髪を撫でて、そっと額にキスを落とした。
「じゃあ、今日だけじゃなくて、明日も甘えてろ。
俺の前では、強がる必要ない」
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夜、ベッドの中。
アマーリエがもぞもぞと布団に潜り込みながら囁いた。
「ねえ……もうちょっとだけ、甘えていい?」
レオンは笑って、彼女をぎゅっと抱きしめた。
「好きなだけどうぞ、アマーリエ様。
……俺は、お前にだけ“だだ甘”だからな」
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誰かを支える者が、支えられる日。
甘える姿すら愛しい――そんなふたりの時間。
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