番外編 きみに甘くなる日
王都の喧騒から少し離れた丘の上。
春の陽気に誘われて、ふたりはひさしぶりの休暇を過ごしていた。
レオンが用意したのは、木陰の下の小さな敷物と、手作りのサンドイッチ。
「これ……あなたが作ったの?」
アマーリエが少し驚いたように問いかけると、レオンは鼻を鳴らした。
「俺だって料理ぐらいできるさ。火の扱いなら慣れてる」
「そういう問題?」
そう言いながらも、アマーリエは一口かじって、ふっと笑った。
「……おいしい。くやしいけど」
「くやしいってなんだよ」
ふたりはのんびりとした午後の時間を過ごし、木漏れ日を浴びながら並んで横になる。
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「ねえ、レオン」
アマーリエがぽつりと呟く。
「こういう日がずっと続いたらいいのに、って……考えちゃうの、最近」
レオンは隣で目を閉じながら答えた。
「続くさ。俺が続けさせる。
誰がなんと言おうと、お前の平穏は、俺の剣で守ってやる」
「……ずるいこと言うの、うまくなったわね」
「誰のせいだと思ってる」
ふたりは目を合わせて、ふっと笑い合った。
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帰り道、夕日が差すなか、アマーリエは唐突に言った。
「手、つないでいい?」
レオンは無言で彼女の手を取ると、指を絡めて、ぎゅっと握った。
「“いい?”じゃなくて、“つないで”って言え。甘えるときは遠慮すんな」
「……じゃあ、もう一つ甘えていい?」
「なんだ?」
「……抱きついてもいい?」
レオンは目を細めて、照れくさそうに肩をすくめた。
「……今なら、いつでもいい」
アマーリエは、まっすぐレオンの胸に飛び込んだ。
ふたりの影が、夕日の中でひとつになった。
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火の中で出会ったふたりが、今は陽だまりのなかで。
傷を知るふたりだからこそ、こんな日々が、何より愛しい。




