番外編 声の途切れる夜
聖省での証言が終わって数週間。
街では静かに、しかし確実に“灰の聖女の再評価”が進んでいた。
その日は、王都北区の公民館で開かれる“記憶の朗読会”だった。
アマーリエは招かれていた――けれど、その壇上で、言葉が出なかった。
---
「彼女は火の中で……」
言いかけて、喉がふるえた。
掌が冷たくなり、視界が狭まる。
(だめ……声が出ない。なんで今――)
目の前の聴衆のなかに、“かつて火刑を肯定していた聖省の面々”がいた。
その視線に、心が押しつぶされかけた。
---
その夜。
ひとりで広間の椅子に座るアマーリエの元へ、レオンがやってきた。
何も言わずに隣に座り、黙って待っていた。
「……ごめんなさい」
彼女がようやく絞り出した声は、擦れていた。
「怖かったの。語るって、まだ怖い。
どれだけ声を出しても、否定された過去が、私の喉を締めつけてくる」
レオンは少し考えてから言った。
「じゃあ、今日はしゃべるのを休め。
焔だって、ずっと燃えてたら灰になっちまう。……なあ、アマーリエ」
彼女は、弱く笑った。
「……ねえ、レオン。
私、あなたがいるから語れるんだと思ってたけど、
語れないときに“あなたが黙って隣にいてくれる”ことのほうが、
もっと、救われるのかもしれない」
レオンは、静かに彼女の手を握った。
---
語る者にも、語れない夜はある。
けれどその夜に誰かが隣にいてくれること――それが“声の力”を繋ぐ。




