番外編 炎に名をつけるなら
もし、“火”に名前をつけられるなら。
俺は、あいつの名をつけるだろう。
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アマーリエ・グレイス。
初めて名前を聞いたときは、ただの神殿上がりの固い女だと思った。
口調は丁寧、目は鋭い、本ばかり読む――それが第一印象。
でも、あいつのそばにいると、
どうしようもなく“焔”を思い出す。
燃えた家。燃えた記憶。燃えた母。
そして――あの日、火刑の裏で、外套をかけてくれた、誰かの手。
ずっと名前も、顔も忘れてた。
だけどあいつと出会って、全部が繋がった。
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あいつは火の中で生きてた。
声を封じられ、記憶を閉じ、ずっと何かを背負ってた。
それでも、語ることを諦めなかった。
俺は何度も傍観者でいようと思った。
“守る”なんて大げさだ、ただ“そばにいればいい”と。
でも気づいたんだ。
俺はあいつに“救われた側”だったって。
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あいつが誰かに笑いかけるたびに、胸がざわつく。
誰かを赦すたびに、俺は自分を許せなくなる。
それでも、あいつが俺を選んだ夜。
小さく、照れくさそうに、でもまっすぐに“そばにいて”と言った夜。
あの夜から、俺の焔はようやく名前を得た。
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アマーリエ。
お前の声は俺の中で、
ずっと、薪を焚く音みたいに残ってる。
静かで、温かくて、
ひとりじゃないと、気づかせてくれる音。
だから俺はこれからも、
“火を恐れずに生きるために”――お前の隣にいる。
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「炎に名をつけるなら、俺は迷わず――お前の名を呼ぶ。」




