番外編 焚き火と朝ごはん
朝の光が差し込むキッチン。
アマーリエは小さな鉄鍋の前で、木のスプーンをくるくる回していた。
「今日は、蜂蜜入りのオート粥よ」
後ろから、寝癖のついたレオンがやってくる。
シャツのボタンがずれている。
「甘いのか……。俺には毒だな」
「じゃあ食べなくていいわよ?」
「いや、毒でも食う。お前が作ったやつならな」
そう言いながら、レオンは背後からアマーリエの腰に腕を回し、あっさり捕まった。
「……寝癖、直してから抱きついて。湯気よりも跳ねてるわ」
「へいへい」
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朝食を終えたあと、ふたりは庭に出て焚き火を起こした。
まだ少し寒い春先、火を囲むのが習慣になっていた。
「今夜の朗読会、何話そうかな……。
この前の“火を怖がらない小鳥”の話、評判よかったの」
アマーリエが言うと、レオンは薪を足しながら答える。
「なら、次は“声を失った狼”とかどうだ。
怖そうだけど、実は歌が好きなやつ」
「あなたがモデル?」
「……バレたか」
火のぱちぱちという音が、ふたりの間に穏やかに響く。
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昼過ぎ、街の子どもたちが遊びに来る。
「先生ー!レオンさんに剣教えてもらいたいー!」
「俺は引退したって何度言えば……まぁ、ちょっとだけな」
庭では子どもたちが木の剣を振り回し、
縁側ではアマーリエが小さな子に物語を語る。
そして夕方、子どもたちが帰ったあと。
ふたりは肩を並べてベンチに座る。
「今日も賑やかだったね」
「静かなほうが落ち着くと思ってたけどな……悪くない」
「私たちが声を届けてきたから、こんな日があるのよ」
「……そうだな。あの頃の俺に教えてやりたい。
“火の先に、粥と子どもと、うるさい嫁が待ってるぞ”ってな」
「誰がうるさい嫁よ!」
レオンは笑って、アマーリエの頭をそっと撫でた。
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焔はもう、戦うためのものじゃなかった。
暮らしを灯すための火。ふたりの手の中に、静かに燃えていた。




