表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

番外編 語られなかった夜


 聖省の調査を終えた夜。

 ふたりは王都近くの簡素な宿に泊まっていた。


 夕食も終え、蝋燭の灯りがゆらゆら揺れる部屋。

 レオンは椅子に座って剣を手入れし、アマーリエは窓際で本を読んでいた。


 しばらく、静寂。


 やがてレオンが不意に口を開いた。


 「なあ……火刑の夜のこと、ずっと覚えてたのか?」


 アマーリエは本を閉じ、少しだけ顔を上げた。


 「はっきりとは。でも、あなたが“あの子”かもしれないと気づいた時、胸がざわついたの。

 ……あの日、私、あなたに何か言った?」


 レオンは肩をすくめる。


 「言ったさ。『見なくていい』『話してくれたら』……そんな優しい言葉。

 だけど、俺には重かった。

 お前は“見なくていい”って言ってくれたけど、俺は“ずっと見てた”からな」


 その言葉に、アマーリエの胸が締めつけられた。


 「……ごめんなさい」


 レオンは首を横に振った。


 「違う。謝るなよ。

 お前のその言葉が、唯一、俺を引き止めてくれた。

 ずっと後になって、あのときの声が思い出されて、……

 “あの人は、たぶんまだどこかにいる”って思えた」


 アマーリエはゆっくりと椅子を引き寄せ、彼の隣に座った。


 「それでも、あなたが今ここにいるのは……私に出会ったから?」


 レオンは笑った。

 少し、困ったように。少し、あたたかく。


 「さあな。たぶん……会いたかったんだと思うよ、ずっと。

 “あの火の夜に、俺の手を握ってくれた女”にさ」


 アマーリエの頬が、ふわりと熱を帯びる。


 「覚えてたんだ、そんなこと」


 「忘れられるわけ、ねえだろ。あんたは、俺の“最初の光”だった」


 そのまま、ふたりの間に沈黙が戻った。

 でもそれは、以前のような重たい沈黙ではなかった。


 言葉がなくても、もう、通じている。


 蝋燭の火が揺れ、ふたりの影が壁に寄り添って揺れていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ