焰の遺言②
王宮大広間に設けられた臨時の公聴会。
それは王命による異例の裁定であり、民間にまで開かれた**“声の審問”**だった。
壇上にはアマーリエ・グレイスがひとり立ち、
その証言を前に、聖省の高官たちが沈黙の中で彼女を見つめていた。
「私は十年前、“灰の聖女”の言葉を聞きました。
それは、怒りでも憎しみでもなく――“赦し”でした」
民衆のざわめきが走る。
彼女の声は、まっすぐに響き続けた。
「彼女は私に託したのです。
“語る者”として、“誰かがまた立ち上がるために”
自分の火が必要ならば、使ってくれと」
アマーリエは、机上の文書を掲げた。
それは、紅の房で発見された聖女の直筆書簡。
その証拠が、この場で初めて公にされたのだ。
「この記録により、私は自らの罪をも語ります。
あの夜、私は沈黙を選んだ。
でも今、その過ちを焼き、新しい焰に変える覚悟でここに立っています」
群衆の中にいたレオンは、無言でその背中を見つめていた。
その姿は、もうかつての“火を恐れる少女”ではなかった。
アマーリエは最後に言った。
「火は、人を裁くためにあるのではありません。
照らすためにある。
真実を、赦しを、そして希望を――見失わぬように」
沈黙のあと、大広間に拍手が広がっていった。
まるで、凍っていた空気が解け始めるように。
その夜。
アマーリエとレオンは、王都の城壁の上を並んで歩いていた。
「……緊張した?」と、レオンがぽつりと尋ねた。
「少しだけ。でも、終わってみたらね、ふっと肩の荷が下りた気がしたの」
アマーリエが笑った。
それは、彼にとって初めて見る“安心した笑顔”だった。
「俺もさ、あの日からずっと止まってたんだ。
母さんの死を、ただ仕方ないと思うようにして……でも今は違う。
あんたの声を聞いて、ようやく“終わらせる”ことができた」
しばらく無言のまま歩いたあと、アマーリエはふと立ち止まった。
「レオン。あなたがそばにいてくれたから、私は“語れた”の」
「……言葉なんてなくても、ちゃんと伝わってたんだろうな」
そう言って、レオンは彼女の手にそっと触れた。
それは焰のように、優しく、そして確かな温もりだった。