表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/27

火を継ぐ者たち②


 クレメンスが手を伸ばした瞬間、

 地下室の扉が内側から激しく叩かれた。


 「クレメンス=アーベル、貴様を王命により拘束する!」


 その声とともに、扉が爆ぜるように開いた。


 土煙の向こうから、レオンが飛び込んできた。

 剣を抜き、ためらいもなくクレメンスへ向かって走る。


 クレメンスは一歩引き、静かに手を掲げた。

 「――ああ、やはり来ると思っていましたよ。黒き獣の名を継ぐ者」


 「黙れ。お前が信じてるのは“神”なんかじゃない。

 “声を封じることで保たれる秩序”を崇拝してるだけだ」


 レオンの剣がクレメンスの刃とぶつかる。

 火花が散り、空気が軋む。


 アマーリエは縄を解き、壁に残された鉄器を手にした。

 自ら武器を取ることなど、これまでの人生で数えるほどしかない。

 だが今、彼女の目には迷いはなかった。


 「クレメンス。あなたが火を守るというのなら――私は声を守る!」


 叫びとともに、アマーリエが突き出した鉄棒が、クレメンスの脇腹を打った。

 その隙を突き、レオンの剣が相手の腕を弾き飛ばす。


 刃が床に転がる音とともに、クレメンスは膝をついた。


 「……なるほど。

 あなたが“語った”ことで、本当に火が弱まるとは」


 レオンが近づき、クレメンスの襟をつかむ。


 「最後に答えろ。お前は何者だ」


 クレメンスは静かに笑った。


 「私は……“最初の火刑”の生き残り。

 信仰に焼かれ、声を失い、それでも神を信じることだけを選んだ者です。

 だからこそ、私はずっと火を焚き続けてきた。

 ――灰の聖女が遺した、“混乱と覚醒”という火をね」


 そして、彼はそのまま崩れるように意識を失った。


 沈黙。

 その中で、アマーリエがレオンに向き直った。


 「……助けてくれて、ありがとう」


 レオンは目を伏せ、ぼそりと答えた。


 「お前が……“焼けなくて”よかったよ」


 アマーリエはその言葉に目を細め、そっと笑った。


 「じゃあ今度は、あなたの中の火を消す番ね。

 ……長い間、ひとりで背負ってきたんでしょう?」


 レオンは初めて、照れたような顔を見せて――そっぽを向いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ