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急報

 

「ウェンツさん!?何か起きたんですか?」


 慌てて出て来たのは職員のアリアだ。


「キヴに居たヴォミドは暴走級(ランページ)!ロックフリンガーだった!」


「なんですって!?」


 ロックフリンガーとは本来魔物としても強力な種で暴走級(ランページ)として扱われる。

 それがヴォミドと化しているなら、討伐難易度が一つ上がっても何ら不思議ではない。


「2級傭兵達で臨時討伐群の号令を出してくれ!騎士団にもだ!」


「ま、待ってくださいウェンツさん!いくらロックフリンガーでもそこまでは無理です!」


「違う!ロックフリンガーデカい奴をシュウの奴が倒しら、キヴの村から更にロックフリンガーが出て来た!全部ヴォミドだぞ!」


 シュウがロックフリンガーを倒したという情報も驚愕の一言だった。だがそれよりも、後半の言葉に、ロビー全体の空気が凍り付いた。


「まさか、(ハイヴ)が出来ていたの?」


 ヴォミドは長い時間をかけて魔物が魔素中毒に至ることで自然発生する天災のようなものだ。

 魔素の許容量や生息域によって差が生まれる為、同時多発的にヴォミドが発生するような事は滅多に無い。

 だが(ハイヴ)は例外だ。特定のヴォミドが周囲の魔物に汚染魔素を撒き散らしてヴォミド化させる感染源のような広がり方をしてしまった結果ヴォミドの群体が出来上がる。それが(ハイヴ)だ。


「ああ、かなり大型のロックフリンガーだったからボス猿だった可能性がある。小さいヴォミドはアレの元々の群れだったんじゃねえかって見てるぜ」


「シュウさんとバリさんは!?」


「バリの旦那は攻撃を受けて伸びちまったから馬車の荷台に乗っけて運んできた!シュウは、シュウは俺達を逃がす為にディナ・シーに乗り込んで囮に…!」


「そ、そんな!」


「まだ助けられるかもしれねえ!だから頼む!応援を!」


「しかし…」


 アリアが言い淀む。

 無理だ――


 バリが使用していたディナ・シーの装備が軽装なのも、ロックフリンガーの脅威度も熟知していたアリアは、既にシュウの生存が絶望的だと理解できてしまっていた。

 倒せたというのも、本当にギリギリだったのだろう。激しい損耗が考えられるディナ・シー1機では、ボスを失ったとはいえロックフリンガー相手では数分と保てないはずだ。

 何より生きている可能性が低い者の為に、準備もままならないまま救援を出して被害が広がれば大惨事だ。それに傭兵とは本来自己責任の世界、そこまでして1傭兵の救助を優先する義理は無い。

 無い、が――


「彼は厳密にはまだ傭兵ですらない一般人、こちらの都合で依頼を斡旋した責任もあります」


「じゃ、じゃあ!」


「ですが時間も戦力もありません!現在寄港している傭兵達でも妖精機持ちの2級傭兵は疾風の足ですが、保有しているのはクー・シー1機、むしろギヴの村にヴォミドが大量発生しているのです。次に狙われるならリオネスカなのですよ!むしろ一刻も早く、この町の要塞化をしなければ――」


 間の悪い事に今はお昼過ぎ、妖精機を保有するような働き者の傭兵達は皆出払っているのだ。

 ウェンツの顔が絶望に染まる。組合との付き合いが長い故にそれが理解できたからだ。


「ならばその件、私が引き継ぎましょう」


 話に割って入ったのは、騒ぎを聞きつけて奥の部屋から出て来たレオン・ファルク=フィガロス公爵だった。


「閣下!?」


「ロブ、私の船に連絡を。機動戦装備にて4機、私の機体も出ます。急ぎなさい」


「はっ!」


 レオンが帯同していた部下を走らせる。


「あの、宜しいのですか?」


 アリアがおずおずと申し出る。レオン・ファルクはフィガロス王国の公爵であるが、同時に中立国ヱビスの評議会によって、オルキュリス帝国とフィガロス王国双方から選出された第三者としての監査官でもある。

 立場上、護衛部隊は存在するが兵力の運用にはデリケートな立場である事をアリアは慮った。


「ご心配には及びません。今回はフィガロス国内であり、私の手勢は王国騎士団の者です。状況によっては王都から増援が必要かもしれません。何より私が先行すればリオネスカの脅威は下がり、事後処理も円滑に進む事でしょう。とはいえ念のため、傭兵組合でも侵攻への備えは怠らないよう、よろしく頼みますよ」


 そう言ってレオンも足早にその場を立ち去ろうとして、振り返る。


「あ、それから私が帰還するまでに支部長を、私の権限において拘束しておいて下さい」

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