赤の戦士ー2
少年は大人しくしている。
傷口の診察も楽にはなった。
ただ時々俺が気を緩めると、俺の首に肘を回して締めてきたりする。
そのたびに、
「これじゃ、まだまだ外せないな」
と言うと、素直に言うことを聞くようになった。
ずっと拘束されているから、もちろんオムツ着用だ。
下の始末は屈辱だろう。
時々窓を開けると、窓の外に目を向けたり聞き耳を立てるようになった。
消化器が少しやられているので、まだ食事は与えられないが、血も吐かなくなったし薬も飲めているので、スープを少し飲ませてみた。
もう顔をしかめなくなった。
「名前は何ていうんだ?話し方忘れたか?」
まだ話す気になれないようだ。
そして、俺はと言うと、やれ薬草をくれだの、傷を見てくれだので、安宿の一室に訪ねてくる町の人が増えて、その対応も大変だ。
少年はいないことになっているので、外で診るしかない。
一緒にいてやると言いながら、それも出来ないでいた。
「ウルフ先生、買い物行くけど、何か買ってきてやろうか?」
遊牧民の家族が声をかけてくれた。
一緒に戦場を渡ってきた遊牧民達には、少年の事は口外しないように頼んである。
すると、遊牧民の10歳の女の子ミアが聞いてきた。
「あの赤い戦士まだいるの?」
「ミア、その事は内緒にしておいて欲しいんだ」
「わかったけど、どうしてあんな人殺しを助けるの?」
「ミア、誰にも生きる権利ややり直す権利はあるんだよ」
腑に落ちない表情だ。
今一度ミアに内緒にしておくことを言い聞かせ、買い物メモを渡した。
俺が部屋に入ろうとする所で、母親がミアに言い聞かせているのが薄っすら聞こえてきた。
「ミア、ウルフ先生の前で、その話はもうしないでね!
赤の戦士でも、ウルフ先生みたいに良い人もいるんだから」
おいおい、秘密は大丈夫なのかと頭を抱えた。
ゲンガーや遊牧民のうちの数家族など、知っている人は少なくはない。
青いマントをくれると言った寺院のお偉いさんも、当然のごとく知っている。
診察も一段落し、お湯を沸かしてお茶を入れた。
ふと目をやると、少年がこっちを見て、口をパクパクしている。
様子を見に行くと、小さな声で呟いている。
まだ声が出しにくいのか?
罠じゃないよなと思いながら、少年の顔に耳を近づけた。
「あなたも赤の戦士だったの?」
初めて声を出した。
開け放たれていた窓から、あの親子の会話が聞こえたのだろうか。
俺は、少年のベッドサイドに椅子を寄せて座った。
「そうだな。秘密だぞ」
すると、また小さな声でこう言った。
「なのに、医者なの?」
「そうだな。正規の医者の資格はないけどな。にせ医者だ」
「どうして?」
「やり直す機会を与えてもらったからだ」
少年は黙り込んでしまった。
「歳はいくつだ?」
「15歳」
「名前は何ていうんだ?」
「ブラン・エ・ルージュ」
「白と赤。まんまじゃねえか!本名は?」
黙り込んでしまった。
「じゃあ、ブランだな!」