赤の戦士ー1
ゲンガーは顔や体中にあざを作って、3日ぶりに帰っていった。
「あの話は本当なのか?」
「どの話だ?」
「謀反の話だ」
「まだ確証はないが、じきにわかるだろう?
でも、まだ誰にも言うなよ」
「お前は、まだペシャリスを憎んでいるだろう?
報復したいんじゃないのか?」
「俺は今や青いマントを頂いている身だ。
政治にも戦争にも加担しない。
ゲンガー、お前もプラドだろ?
余計なことに首突っ込むなよ」
「アイツの話も本当か?アイツもショックだったろうな!」
「そうだな!自分を取り戻すのには何年もかかるだろうな」
あざだらけのゲンガーが、また俺を抱き寄せる。
「あーーー!割に合わん!
おい、ウルフよ!ケツ洗って待ってろよ」
そういって去っていった。
赤の戦士。
ペシャリス王国が作り出した少年兵の中から、選りすぐられた精鋭の事を言う。
ペシャリス国王から寵愛を受け、赤いマントを贈られた戦士だ。
大人顔負けの戦闘力を持ち、常に闘いの最前列にいる存在だ。
先陣を切って敵の大将クラスに挑み、時には敵の大将の首も取る。
ペシャリス軍の大将は黒いマントを付けている。
その傍らに赤いマントを翻えさせて並ぶ姿は、他国の部隊から恐れられ、時には下級兵士達が道を開ける。
その様子は、モーゼの十戒の海が割れる場面の様だと言われていた。
でも、裏を返せば、
赤の戦士は皆16歳程度の子供だ。
孤児や貧困家庭から売られてきた、10歳前後の男の子を集め厳しく鍛え上げる。
最初の一年は、栄養と体力をつける為良い食事を与えられ、その間に、国王への感謝と忠誠を教え込まれる。
二年目になると、本格的な武術や戦闘を教え込まれる。
三年目からは、精神的に過酷な訓練が多くなる。
夜も寝ずに森の中を行軍する。
家畜の屠殺をやらされる。
戦死した者を穴に埋め火を点ける。
そして、脱走兵や裏切り者の処刑もやらされる。
それでも、それまでは皆励まし合い協力し合いやっていた。
それもどんどんなくなっていく。
殆どの子供がこの辺りから壊れていくからだ。
そして、脱落すれば、甲冑も付けずに戦場に送り出される。
15歳になれるのは、100人中のほんの5人程だ。
そのうち、赤の戦士に選ばれるのは1〜2人だ。
この時もうすでに、自分というものは奥底に閉じ込められ、戦闘マシーンの様に、殺しの全てを教え込まれ、それを体に刻むしかない。
赤いマントを贈られ、闘いに出る直前に薬の瓶を渡される。
一度飲んだら2日位は戦える。
でも、効き目はだんだん落ちてくる。
凶暴性が増し、五感が異常に冴え、痛みも消える。
腕を切り落とされたまま失血死するまで戦う戦士もいる。
首を落とされたのに剣を振っていたという話も聞いたことがある。
リミッターが外れた様になるので、五感が異常に冴える。
相手の剣が遅く見える、
驚く程早く剣を振ることができる、
矢の飛んでくる音が聞こえ回避できる。
倒す相手の弱点が見える。
ただマシーンの様に殺戮を繰り返す。
赤の戦士が戦場に送られる時、それは死を意味する。
あれ程国王から寵愛とやらを受けていても、赤いマントを贈らる時は、俺の為に死んで来いということだ。
そして、あの薬も5回も飲めば体と頭がボロボロになり、死に至る。
せいぜい1週間程の命だ。
どのみち、赤の戦士は生きて帰ってくることはない。
使い捨てだ。
そして、死ねば敵に首をはねられ、悪党のように晒される。