離脱ー2
「傷を見せてもらえないか?」
ゲンガーが俺の後ろで怖い顔をして控えている。
体の傷を確認し、消毒や薬草を取り換えている間も大人しくしている。
でも、首を触るときだけは少し抵抗した。
急所だからな!
「喉が少しやられていた。痛くないか?」
少年は一言も発しない。
「薬を飲んでみよう」
そう言って、ゲンガーに体を起こすのを手伝ってくれもらったが、ゲンガーも相当緊張している。
そりゃそうだろう。
何度殺されかけたことか……
俺が差し出したスプーンに入った薬を、抵抗もせず飲んだ。
喉に沁みたのか、顔をしかめ少しむせた。
またベッドに横たえると、ただ天井を見つめていた。
この少年にとっては、久しぶりの正気に戻った時間だったろう。
まだまだか。
何歩も手前かもしれない。
「拘束を外してやりたいが、もう少し様子を見させてくれ」
少年は上を向いたままだ。
「俺の名前はウルフだ。偽医者だ」
ゲンガーを指さして、
「こっちは、ゲンガー。お前さんの治療に協力してくれた」
「おうよ!何度も殺されかけたがな」
「名前は言えるか?」
少年は答えない。
赤の戦士には、声を出してはいけないという掟があるからだ。
俺はゆっくり話し始めた。
「覚えているか?
お前さんは、ここ1週間程で数多くの精鋭と呼ばれる戦士を倒し、3人の大将の首を落とし、史上最強の赤の戦士と呼ばれていた。
だけど、お前さんは矢で射られた。
あの位の傷なら、まだまだ戦えた筈だ。
でも、お前さんは地に伏していた。
お前さんに射られた矢は全て後方からの物だ。
お前さんは味方にやられたんだ。
つまり、信頼している人に葬られたんだ。
ペシャリス王の寵愛を受けている赤い戦士を討つということは、明らかに謀反だ」
ゲンガーが、ただの驚愕なのか同情なのか怒りなのか、何とも言えない顔でまっすぐ目を見据えている。
「お前さんは報復もせず、立ち上がりもせず、地に伏した。
混乱し、絶望したんだろう?
いくら薬を飲まされているとは言え、いや、飲まされているからこそ、一度感情が生まれてくると拭えない。
違うかい?」
少年は無表情のまま、天井を見つめていた。
「もうペシャリス王に忠誠を誓う必要もない。
なぜなら、戦場にお前さんを送り出した時点で、捨て駒ってことなんだよ。
赤の戦士だった君の役目は終わったんだ。
もう何人たりとも殺してはいけない。
ここからは、次の人生に進まなければいけない。
それは、本当の自分を取り戻し、罪を償いながら生きていく茨の道だ。
できるか?」
俺には、まだ少年が何を考えているのかはわからない。
「お前さんが、自分の口で自分の思いを言えるようになったら、その拘束を解こう。
すまないな!
お前さんは脅威を身に着けてしまった。
それをコントロールできるようにならないといけない。
まぁ、痛みが蘇ってきて、しばらくは動けないだろうし。
俺がしばらく一緒にいてやる」