番外編短編・念
琴羽は毎日通勤電車を利用していた。満員電車だ。正直、疲れる。
この場所は霊的によくない。ホテルも人の念、思いなどが残っている場所だが、満員電車や駅も全く負けていない。
周囲の人の顔を見ると、疲れ切っており、悪い影響を受けそう。エクソシストをしている琴羽は心の中で祈ればいいが、敏感な人などはここに居るだけで疲れるだろう。琴羽も子供の頃は満員電車、人混み、繁華街では頭痛や体調不良を起こしていたが、霊的な原因もあると見ていた。
ようやく駅につき、満員電車から吐き出されたが、ホッとする。
「今日もめっちゃ、混んでたわ……」
そう呟いた時、ホームのベンチに座っている人に気づいた。若いOL風の女性だったが、顔は真っ青。息遣いも荒く、すぐにピンときた。もしかしたら、エクソシスト案件。あまり露骨にはできないが、駅にいる雑魚悪霊だろう。心の中で祈っただけでも、だいぶ祓えたらしい。
「大丈夫ですか?」
「ええ。なんか満員電車に乗ると、いつも頭痛や吐き気がするんですが」
OLの表情は軽くなってきた。これで良かったと思うが、精神疾患、トラウマなどがある場合も満員電車に乗ると、余計に悪い影響を受ける場合がある。OLには「できれば人混みを避け、一人の時間を大切にするように」と伝えた。
「という事、翠。一人の時間は大事。もちろん、教会でみんなと一緒に祈るのも大事だけど、無理はしない事だね」
この顛末を翠にも伝えた。教会の礼拝堂だったが、翠も夏の暑さで体調を崩しているという。
「そっか。人の念も影響あるのか」
「ええ。特に翠のようなイケメンは、女性からの視線や念でも体調崩してしまう事があるからね」
「なるほど、男性アイドルがたまに体調崩しているのは、理由があったのか?」
「ええ。目立つ職業の人が宗教にハマりやすいのも理由がある……。きっとみんな無償の愛や真理を求めててる……」
そんな事を話していたら、結局、人は「正しさ」だけでは救われないのかもしれないと気づく。エクソシストをしていると、スピリチュアル的、オカルト的だと批判も受けるが。
「そうだな。たまには休んで、体調直すか」
「ええ。その方がいい。一人の時間も大切に」
琴羽がそう伝えると、翠は子供のように笑っていた。




