番外編短編・翠の休日
ホテル暮らしをしていた翠だが、一人でエクソシストをするのも限界があり、結局、琴羽の教会に帰ってきて、暮らす事になった。
「いや、翠くんが帰ってきて嬉しいよ」
琴羽の父の牧師は大歓迎だ。今日の夕飯はホットプレートを出して、焼きそばだ。琴羽も青のりを気にせずに焼きそばを食べている。家庭的で平和なひとときだ。あのホテルでエクソシスト事件に巻き込まれた事など嘘みたいだったが。
「ところで翠くん、ゴールデンウィークはどうする?」
牧師も焼きそばを食べつつ、何気なく聞いてきた。
「暇なんですよ。いつもは仕事か海外に遊びに行くんですが」
去年は彼女とアメリカへ旅行に行ったわけだが、今年はそんな事はしたくない。クリスチャンになった今はすっかり落ち着いてしまった。
「パンケーキ屋のチケットをもらったんだが、翠くんどう? 甘いもの好きだっただろう?」
「牧師さん、いいんですか!? わー、ちょー嬉しいいぞ!」
無邪気な翠に琴羽は冷ややかない視線だったが、チケットは二枚ある。
「琴羽さんもパンケーキ食べにいこ!」
「えー、ダルい。家で映画みたい。エンタメのキリスト教の変なところをツッコミ入れたいし」
「そんな陰湿な趣味良くない! パンケーキ食べよ!」
「そうだよ、琴羽。エンタメは正しさより楽しさだよ」
「えー?」
冷ややかな視線の琴羽だったが、結局、翠とパンケーキを食べに出かけた。
教会から十分程度でつくカフェ。ゴールデンウイークらしく行列ができていた。琴羽は面倒そうな顔をそていたが、パンケーキを食べたら表情が変わった。
「何このパンケーキ。家で作るのと全然違う。ふわふわ!」
「そうだろ、琴羽さん。ここのパンケーキうま!」
甘いもの好きな翠はもちろん、夢中でパンケーキを楽しむ。
ホテルのエクソシスト事件で疲れていた二人だったが、甘くふわふわなパンケーキですっかり癒されていたが。
「ちょっと翠。どうせこの辺りきたた、土地のエクソシストもついでにやっていきましょう」
カフェから出たら琴羽が提案してきた。この辺りは一見、賑やかな飲食店街だったが、奥の方に行きと、風俗関連の店もある。
「いつものようにお祈りしながら歩きましょ」
「今日休日では?」
「翠、エクソシストに休日はないわ」
結局、琴羽には逆らえず、翠も歩きながらエクソシストをする事に。
確かに風俗関連の店あたりは、空気がピリピリとしていて、霊的に重い感じだ。さほど霊感のない翠でも伝わってくるほど。
「あれ? 琴羽さん、こっちは占いのお店があるよ。そういえば風俗街ってよく占い師もいない? あと神社の側にラブホも多くない?」
偏見だったが、そんなイメージがある。過去の翠は初詣を終えた後、そのまま彼女とホテルへ直行した事もあり、神社の側にはそれが多い印象だった。
「げー、翠。そうとう乱れていたね」
「あきらかに引いてるね……」
「引くよ、引く。まあ、こういう神社や占いは霊的には神様以外に浮気する姦淫にあたるからね。神社の近くにラブホ、風俗街に占い師っていうのは、同グループって感じ」
「なるほど。聖書では偶像崇拝=浮気って感じだった」
「その通り。だから新しく教会を作る場合は、地域のこんな状況もよく見極め……」
結局、琴羽との会話も聖書や霊的な事ばかり。エクソシストもしている。今年から翠の休日は、去年とは全く違うものになったらしい。




