第九話
あれから数日後。テレビの手のひら返しがすごかった。
「宇宙少年は虚言癖があった!」
「言っている事は全部デマ!」
「宇宙人なんて嘘!」
そんな見出しもネットニュースを騒がせていた。あれ以来、暁人は宇宙人とのチャネリングに失敗し、テレビでも失態を続けていた。急に一件も未解決事件が解決できなくなり、ハシゴを外されたように叩いていた。
偶然にも他の芸能ニュースや政治家のスキャンダルが無い時期だった。暁人は集中砲火され、ネットでも炎上の渦中になり、丸焼き状態だった。
「本当、テレビって何? こんな急に手のひら返して、いじめじゃん。小学六年生の少年にする事? 今まで暁人くんをオモチャにして持ち上げて十分楽しんでいた癖に!」
琴羽は暁人を叩くテレビを見ながら目が吊り上がっていた。
今日は仕事が休みの土曜日だ。あの香澄の一件以来、 暁人の悪霊による力が無くなった事は喜ばしいが、本当にこれで良かったのか答えがない。故にテレビにも八つ当たりをしてしまっていた。
「まあ、琴羽さん。でも、本当に俺らがしたこと良かったのかね? あのまま宇宙人小年としてやっていた方が良かったか?」
翠もそこに疑問を持っているよう。眉間に皺をよせ、微妙な表情だ。
「それにしてもテレビは酷いね。本当に琴羽さんが言う通りいじめだな。最初から持ち上げるなっていうか……」
翠は呆れてテレビの電源を消した。確かにどのチャンネルも暁人への中傷ばかりで目も当てられなかった。
「ま、琴羽さん。しばらく暁人くんのことは忘れよう。っていうか、遅かれ早かれこうなっていた気がする。うん、ケーキでも食べよ!」
無理矢理笑顔を作り、翠は琴羽を励ましているらしい。この笑顔に琴羽も少し救われた気分の時だった。
教会のチャイムがなった。
急いで出て行くと、そこには暁人。一応サングラスをかけて変装はしていたが。表情や声は落ち着いたもので、とてもメディアの炎上の的に見えないぐらいだった。
「あ、暁人くん。ごめん」
「琴羽おばさん、なんで謝る?」
暁人はサングラスを取り、自分もエクソシストをして欲しいと頼んできた。
「実は今、とてもホッとしてる。もう多くの人の期待に応えなくていいから」
その暁人の声は掠れていた。
「そっか……」
いつの間にか翠もやってきて、呟く。
結局、三人で礼拝堂へ移動し、暁人のエクソシストを始める事になった。
暁人のよると、香澄の体調はかなり良いらしく、病院の医者も驚いているぐらいだった。一方、暁人は悪夢をよく見るようになったという。
プレッシャーからは解放された暁人だったが、あの宇宙人がずっと夢の中で攻撃しているという。
「こんな僕はダメだって、ずっとそう耳元で囁かれてね。どうしようかね?」
「暁人くん、呑気に笑わないでいよ。それ、悪霊よ!」
「そうだよ! 早く追い出さないと!」
手の平返す存在はテレビだけではなかったらしい。傲慢にさせ、持ち上げるだけ持ち上げ、おとる時に堕とす悪霊の意図に、琴羽は言葉もないが、とりあえず、祈り、賛美とエクソシストを始めた。
途中で暁人は意識を失い、同時に悪霊も姿を表す。
『エクソシストの女かよ。へぇ?』
悪霊はエイリアンなような容貌だった。確かにこれは宇宙人に見えるが、琴羽も翠の目からは悪霊にしか見えない。
その証拠のように「イエス・キリスト」と翠が言うと、明らかに萎縮し、ガタガタと震えてる。自称・宇宙人という存在が、神の名前に怖がっているのは、どう考えてもおかしい。
「あんた、暁人くんに良い思いさせるだけさせて、後でハシゴを外すつもりだったんでしょ? 未解決事件も、手下の雑魚悪霊を使って調査させたわけね?」
「こっちはお前の手の内わかってるぞー!」
その意図を二人して見透かされ、悪霊は宇宙人のフリも辞め、わかりやすく真っ黒な堕天使の姿も見せてきた。
『うるさい! でも、お前らクリスチャンや天使のせいで悪霊でも入れない地域がけっこうあるんだよ! 未解決事件なんて俺達でも解決できんから!』
そんな自分勝手な事も暴露してくる悪霊に、琴羽もブチギレ、聖書の言葉で徹底的に追い出しを始めた。
翠も応戦し、二人でエクソシストをやっていると、あっという間に追い出せた。見た目ほどランクも低い悪霊だったらしい。
「暁人くん、起きて!」
「暁人くん、起きろー!」
最後に二人で寝ている暁人を起こした。
「あれ? アレ? なんだったの? 夢だった?」
目が覚めた暁人。琴羽はすぐに暁人の目を覗き込んだ。もう目の暗さがない。完全に憑き物が落ちたようにスッキリとしていた。深い海の底から、晴れた青空の色へと変わったよう。
「あぁ……。ホッとしたよ。琴羽おばさん、翠にいちゃん……」
暁人は泣いてしまったが、悪い涙ではないだろう。安堵と解放の涙だった。
「もうテレビに出たり、いっぱい強いフリしなくても良いんだよね?」
暁人の言葉に、琴羽が深く頷いていた。




