第七話
テレビやネットニュースの中で暁人は大フィーバーしていた。
あの後も未解決事件の死体を何回も言い当て、天才宇宙人少年と呼ばれるほどだ。
結局、あの湖に向かった事は何の成果もなく、余計な事をしてしまったらしい。これには琴羽も落ち込み、今日は会社を休んでしまった。
「あーあ。何やってるんだろう? 暁人くんの宇宙人は絶対悪霊なのに……」
食卓でボーっとテレビを見ていた。窓からは温かい日差しも入り気温もポカポカだったが、琴羽の表情は重い。
「暁人くん! 実は娘がずっと行方不明になっているんです。居場所を教えてください!」
「いいよ。これから宇宙人にチャリングするからね」
テレビ画面にはまた暁人のチャネリングしている様子が映り、ため息しか出ない。また未解決事件を解決する未来しか見えず、悪霊の意図も全く見えない。
「本当にどう言う事? まさか暁人くんに啓示を与えている存在は神様……?」
暁人の話では、神様の声が聞こえる事もあったそう。これだけ世の中の役に立っている啓示を与えているとしたら、やはり神様?
「悪霊だと思っていたけど、実は違う……?」
思考の迷路に入り込んでしまったようで、頭を抱えてしまう。こんな時は父に相談ですれば良いかもしれないが、今は他県の教会へ出張中だった。
「わからない。暁人くんに啓示を与えているのは悪霊? 神様の声?」
「ちょ、琴羽さん! 考えすぎだって!」
顔を上げると、翠がいた。片手にはケーキボックスみ持っている。いつもの仕事中の御曹司ルックスだったが、食卓にナチュラルに座る。
「は? 翠、どうしたの?」
「さすがに心配だろ。仕事休むほど考えこむことか? ま、ケーキでも食って気分転換しよ」
「え?」
琴羽がとまどっている間、翠はテレビのチャンネルを変えた。別のワイドショーが始まっていたが、もう暁人の顔や未解決事件の被害者家族もいない。アイドルの新しい舞台の稽古風景が流れていた。
そして翠はお茶を沸かし、ケーキを皿に盛ってやって来た。フルーツたっぷりのショートケーキだった。
「ケーキ食おう!」
「え、ケーキ?」
「そうだよ、ケーキ!」
翠はいつも以上に無邪気に笑いケーキを食べ始めてしまった。
「う、食べるか」
琴羽もつられ、フィークを握ってケーキを食べ始めた。純白なクリームはなめらなで甘い。フルーツの甘みやスポンジの柔らかさが心地いケーキだ。
二人で無言でケーキを食べていた。
「人気YouTuberは暇の時の方が良いアイデア浮かぶって言ってたよ」
翠は何かを思い出したように言う。
「あと、ミュージシャンとか大学教授や作家何かも暇で遊んでいる時の方が良いアイデア浮かぶって言ってた」
「翠、どういうこと?」
「つまり暁人くんの事は忘れてケーキ食えって事だ。浮かぶもんも浮かばないって」
そう言うと、翠はさらに笑顔でケーキを頬張る。
「わ、わかった」
琴羽も何となく翠が言いたい事がわかってきた。確かにずっと暁人の事を考続けていても、何の解決にならなそう。
とにかく今はケーキを食べた。テレビのアイドルの舞台風景を見て、忘れる事にした。
それに自分で頑張っている時は、うまくいnかないものだ。適度に手を抜いていた方が神様に委ねられるかもしれない。
「翠、ありがとう。そうね。考えるのは辞める」
「だろう? 考えてもしょーがないって。神様に委ねよう」
「ええ。もう降参します。神様、自分ではわかりません。とりあえず自分で出来る事がすたと思うので、神様に全部委ねます」
そう言った途端、肩の力も抜けた。口に中はケーキの甘みでいっぱい。部屋の中はポカポカと心地いい。気が抜けるのと同時に、身体の力も抜けてきた。
頭の中では「私が弱いときにこそ、私は強い」という聖書の言葉が流れていく。確かに何も分からず今は弱い。それでも、自分の力に頼れない今は、気も身体もすっと力が抜けてきた。
「ケーキ、うま! 琴羽さん、そう思うでしょ?」
「ええ」
それに隣で無邪気に笑う翠を見ていたら、余計にそう。気づくと眉間に皺を寄せ、うぐるぐると考えていた琴羽だったが、今は口元もほころんでいるぐらいだ。
その時だった。ふと、テレビを見たらワイドショーの話題が変わっていた。
アイドルの舞台裏から、芸能人の不祥事を扱っている。人気若手俳優が一般人の熟女と泥沼不倫をしているというゴシップだった。この一件で若手俳優のレギュラー番組、CM、ドラマ出演も全部無くなり、スタジオ内のコメンテーターも嬉々と叩いていた。だらしがないとか、今時の若者とか、危機管理がないとか。
「うわー。テレビのワイドショーってキツイいな。この若手俳優、おばさんのアイドルって感じで持ち上げられていたのに。こんな持ち上げて落とすって何? いじめ? 誰だって完璧でも強くもないのに。むしろテレビで良い人できるなんてサイコパスだし」
翠はこのワイドショーを見ながら怒っていた。さっきまで笑っていたのに、忙しい男だ。琴羽も苦笑しそうになった時、頭に何かピンと来た。
「持ち上げて落とす? テレビってそう言う所?」
「そうだよ、琴羽さん。だから俺も子役のスカウトいっぱい来たけど、全部断っていたからね」
鼻の穴を膨らませながら自慢する翠はどうでも良い。
「わかった。暁人くんに啓示を与えている存在はやっぱり悪霊! 人助けの為じゃないわ!」
ついつい琴羽は大きな声を出す。ようやく悪霊の意図が読めた。暁人をこうやってもちあげるだけ持ち上げ、後で堕とすつもりだろう。
「やっぱり! 悪霊がそんな人の役立ち事教えるわけないよな!」
この推理には翠も深く頷いていた。
「だったら琴羽さん、どうする?」
「決まってるじゃない。暁人くんに事情を話して止めさせる! 行きましょう、翠。暁人くんのところへ!」
どうか悪霊にハシゴを外される前に。琴羽達は急いで暁人の家へ向かっていた。




