第六話
数日後、暁人が死体を見つけたS県の田舎まで移動中だった。
翠に頼むと御曹司特権を限りなく行使してもらい、タクシーで移動中。助手席に翠、後ろに琴羽と暁人が座る形となった。
「つまんなーい」
S県まではタクシーを使っても一時間以上あり、暁人は退屈し始めている。足をぷらぷらさせ、ぶー口を尖らせる姿は、とても宇宙人少年として人気者に見えないぐらい子供っぽい。
確かに窓の外はだんだんと田舎に変わり、山や田んぼばかりになって来たので、琴羽も翠もあくびをしているぐらいだ。
「君、宇宙人少年の暁人くんか? すごいね。おっちゃんもオカルト番組見てるから」
タクシーの運転手は気を使い、暁人に話しかけていた。気さくな雰囲気のおじさんに、暁人も急に態度を変え、ニコニコし始めた。よっぽど退屈だったらしい。
「うん! 僕は昔から天使とか宇宙人の姿が見えたりできたから!」
「そうなん?」
この中で一番驚いているのはタクシーの運転手だった。琴羽はエクソシストを長年やっていたし、翠もこうしてエクソシストをしながら悪霊の姿も何度も見ていたので、特に驚く事ではなかった。暁人の発言はさほど珍しくない。
「琴羽おばさん、何で驚かないの? 僕、天使や宇宙人の姿が見えるんだよ」
「うるさいわね、おばさんって言わないでよ」
「まあまあ、琴羽さんも暁人くんも、もうすぐ湖の方へつくよ」
翠が間に入り、何とか悪い雰囲気にならず済んだが。
「ふん、琴羽おばさんなんて知らないし。僕だって神様の声が聞けるんだから」
「はいはい」
琴羽は呆れていたが、暁人の話をよく聞くと、そうでもないらしいかった。暁人が聞こえたという神様は、教会へ行けなどとも言っていたらしい。
「本当!?」
これには翠も驚いていた。
「うん。何だったかなぁ。神様の顔は見えなかったけど、僕の事をすごく愛しているとか何とか言ってたよ」
「それは……」
暁人が聞こえた存在は、琴羽達の神様、つまりイエス・キリストの可能性もあると言う事か。琴羽の表情は複雑だった。
「だから僕は教会に憧れもあったのに、あんなに地味で学校みたいなのはガッカリだよ」
またその話題となり、タクシーの中はゆるい空気に包まれた。これには全員、苦笑するしかない。
「さあ、もうすぐに湖に着きますよ」
タクシーの運転手がそう言った数分後、本当に湖の近くに着いた。
しかし、なかなか外に出る事ができなかった。湖の周りは報道陣が集まり、警察もいた。さっきまでの田舎の風景と変わり、騒々しい雰囲気だった。改めて事件の大きさを実感させられたが、暁人はむしろ好奇心いっぱいの目だった。
「何だ、マスコミが集まっているの? 面白そうじゃん?」
「ちょ、暁人くん!」
琴羽が止めても無駄だった。暁人は手早くシートベルトを外すと、あっという間に外に出てしまった。
「宇宙人少年だ!」
「暁人くん!」
「どうしてここに死体がある事がわかったんですか!?」
あっという間に暁人はマスコミに囲まれてしまった。
「今すぐチャネリングして! 他にも未解決事件があるんです!」
「そうだよ、暁人くん! 助けて!」
「暁人くん!」
マスコミ達は暁人くんコールまで始めていた。タクシーの中からもその声がガンガン響く。
「困ったねぇ。いい? チャネリングするよ?」
すると、暁人はまたチャネリングを始めてしまった。
「止めなきゃ。暁人くん、一体何をやっているのよ」
琴羽もタクシーの外に出ようとしたが、翠に止められしまう。
「いや、琴羽さん。あの様子じゃ無理だよ」
窓の外からもう一度暁人を見たが、マスコミに煽てられ、笑顔でチャネリングしている。目も爛々とし、本当に神様にでもなったかのような……。
「どうしよう。でも、暁人くん、どうしたら?」
翠もタクシー運転手も、諦めたように首を振っていた。
「わかった! また未解決事件の遺体の在り方がわかったよ!」
戸惑っている琴羽を奈落の底に落とすように、暁人の声が響いていた。
「今度はT県U市の廃神社の土の下に埋められてる! 三十年前の女子高生誘拐事件の! 早く! 宇宙人に教えて貰ったから確かだから、急いで探して!」
琴羽は言葉を失っていた。
頭では宇宙人=悪霊だとわかっていたが、どういう事?
「何で悪霊がそんな人間に良い知恵を与えているの?」
さっぱり分からない。例え、クリスチャンが殺人事件を解決してほしいと神様に祈ったとしても、そんなダイレクトに啓示が来る事は稀だろう。地道に調査する力や、ヒントらしきものが啓示される事はあるだろうが。
「どう言うこと? 翠はどう思う?」
翠も何も言わない。いや、言えないのだろう。ただ無言でこの騒動を見守っていた。




