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とある牧師の娘と御曹司のオカルト事件簿〜牧師の娘、御曹司とエクソシストはじめました〜  作者: 地野千塩
第四部 宇宙人少年エクソシスト事件

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第五話

「暁人くん、あの子も今、一人で広いタワーマンションに住んでいるんだってさ。まだ小学六年生なのにな」


 父はそう言い、食卓の鍋にネギやニラを投入する。


 今日の夕飯は鍋だった。しかもカレー鍋。昨日、翠がカレーを作りすぎてしまったので、結果、今日はリメイクする事に。といっても、今日は和風出汁でアレンジし、野菜も大量に入れたので、以外と味の飽きはない。


 あの後、暁人を送っていった父が帰り、こうして食卓を囲んでいた。


 翠はカレー鍋の汁を啜りつつ「わぁ。暁人くんもタワマン住んでるとかヤバ。子供一人で住むところじゃないよ」と騒ぐ。


「暁人くんのママは元々、精神障害があったらしいね。パパも離婚していなし、私は暁人くんが『子供が親を選んで来て生まれてきた』っていう気持ちはわかるんだがね。おそらくオカルト云々っていうより、ママに好かれたくて言ったうそだったんじゃ?」


 父の仮説を聞きながら、琴羽は思わず下を向いてしまう。さっきまで暁人に怒り、泣かしてしまった事に罪悪感を持ってしまった。


「私、暁人くんに厳しい事を言いすぎたかも」


 美味しいカレー鍋を食べているはずだが、琴羽の声は萎んでいた。結果的に暁人を裁き、泣かせてしまった事は事実だった。暁人の家庭環境に背景など何も知らなかったのに、一方的に裁き、叱ってしまった事に言葉が出て来ない。


「いや、琴羽さん。そんな落ち込むなってよ」


 もっとも翠は全く気にしていないようで、カレー鍋を勢いよく食べていた。


「そうだよ、琴羽。死体が見つかった事とか、宇宙人とか、チャネリングとか、この際はどうでもいいじゃないか。暁人くんは普通に仲良くしよう」


 父はパンパンと手を叩き、翌日も教会に遊びに来るよう誘ったという。


「琴羽、イエス様は子供を一番大切にしていただろう? だったら、琴羽も暁人くんを一番大切にしなさい」


 逆に父から叱られ、ぐうの音も出ない。


「そうだよ、琴羽さん。それに良かったじゃないか? この前エクソシストでみんなから褒められていたら、俺ら、調子に乗ってたんじゃない? 暁人くんは神様が連れて来てくれた子なんじゃ?」


 翠にまで言われ、琴羽はもう言葉がない。父や翠の言う通りにしようと決めた。というより、神様の命令に従っている感じだ。父が言うように、聖書の中でイエス・キリストは子供を一番大切にしていた。今はただ暁人を普通に大切に接する事が一番だろう。とりあえず、チャネリングや死体、宇宙人、悪霊の意図などは全部忘れる事に決めた。


 こうして翌日。


 また夕方、暁人が教会に遊びに来た。今日は翠は仕事で、父も近所の信徒の所にお祈りに行っていた。つまり、琴羽と暁人は二人きりだった。


「ねえ、何でこの教会は、こんなに地味なのさ。何でマリア像、ステンドグラス、シスターもいないんだ?」


 昨日と同じように暁人は、礼拝堂を見ながら口を尖らせていた。


「こんな地味な施は教会じゃないから」


 そこまで言ってくる暁人にため息が出そうになったが、寸前で我慢。


「この教会はプロテスタント教会だからね。カトリックだったら、そういう派手なもんもあるけど」

「プロテスタントって何ー?」

「キリスト教の一大派閥だよ。カトリックは派手で伝統、プロテスタントが地味で新しい方って覚えておくといいわ」

「ふーん、つまんね」


 こんな話に飽きて来たらしい。あくびをし、チョコレートをぽりぽり齧っている暁人に、また琴羽は文句を言いたくなったが、どうにか我慢した。


「僕はやっぱりこんなの信じないから。信じられるのは、チャネリングしている宇宙人。それから、僕自身。僕は神様だから」

「へえ。だったら、神様。今すぐ、新しい動物を創造してくれる? チンチラっぽくて、耳はウサギっぴくて、顔はネコっぽい可愛い動物できる?」

「そ、それは……」


 冗談のつもりだったが、暁人は口籠もり、下を向く。


「た、確かに新しい動物を創造するのは、無理だけど」


 あっさり負けを認めた暁人に、今度は琴羽も拍子抜け。


「ねえ、暁人くん。本当は宇宙人少年とか全くやりたくないんじゃない? 無理してやっていない?」


 そんな気がした。実際、琴羽の言葉に暁人は口篭ってしまい、もう涙目だ。


「お母さんのため?」

「そ、そうだよ……。お金も入るし、僕がママを選んで生まれてきたっていうと、とーっても喜んでくれたから……」


 昨日とは全く違う意味で泣きそうな暁人を見ていたら、何も言えない。子供なりに忖度し続けた結果がこれだとしたら、なんとも健気でいじらしい話だ。


「でも、宇宙人と話できるのは本当だし。嘘じゃないし!」

「そう……」


 これ以上、暁人と張り合うつもりはないが、やはり不可解だ。基本的に人間を堕落させ動いているような悪霊が、なぜ人間に死体の在り方ばどを教えるのか。


「だったら、暁人くん。その死体が見つかった現場に一緒に行かない?」


 もしかしたら、現場に行けば何かわかるかも。その土地にいる悪霊が雑魚悪霊を使役し、暁人に宇宙人として情報を与えた可能性もある。その意図は全く分からないが。


「暁人くんもおかしいなって思わない? その宇宙人がなんで暁人くんに良い情報教えてくれるの?」

「た、確かに……」

「何か代償を要求してくる事も十分に考えられる。ええ、これはちゃんとオカルト的な背景を調べた方がいいと思う」


 ここまで言われたら、暁人も反論できず、今度の土曜日、あの死体が見つかった湖に向かう事になった。翠もこの話に乗り、一緒に行く事に決まったが。


「それにしても何で?」


 琴羽は暁人が見つけた死体に新聞記事、ネットニュース記事を全部読んでみたが、その意図はわからない。


 ただ、海外では似たようなケースがあり、冷媒し、殺人犯を見つけた事件もあったらしい。今ではそてもオカルトや都市伝説として処理されていたが、琴羽は首を傾げるばかり。


「悪霊の意図って何よ?」


 今は暁人のは家庭環境などの背景もわかってきた。暁人自身を責めるつもりは全くない。ただ、その背景にいる悪霊の意図が読めず、迷路に迷い込んだ感覚がした。

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