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とある牧師の娘と御曹司のオカルト事件簿〜牧師の娘、御曹司とエクソシストはじめました〜  作者: 地野千塩
第四部 宇宙人少年エクソシスト事件

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第二話

 奥村暁人という「宇宙人小年」は、見目が良かった。


 目は子供らしくまっすぐ。鼻や口元も整い、将来、かなりのイケメンになりそう。年は十二歳というが、それよりも大人っぽい雰囲気もある。子供らしい所作がなく、指先まで丁寧に動いているか。オカルト番組の画面の中でも、嫌悪感がない。むしろ、清潔感と大人っぽさがある少年だった。


 琴羽達はこのオカルト番組を固唾を飲んで見守っていた。


 この番組は、時々、聖書が改竄されているとか、キリストは青森で生きていたというデマを広げていたので、琴羽も父も注目はしていた。


 確かにそれらは全部デマで、視聴率も悪く、司会者は何回も交代していたが、中には信じてしまう人もいた。教会に問い合わせに来る人もいて、内心琴羽は迷惑していたが。


「視聴者の皆様。これから僕は高次元の宇宙人とチャネリングをするよ。そして、未解決事件を一つ、解決しようと思う」


 暁人は自信満々だ。まだ体格は子供らしいくせに、胸を張り、目元もドヤっとしていた。もっともそんなわざとらしい表情が、テレビ映えもし、スタジオのいる司会者、俳優、コメンテーターよりもかなり目立っていた。


「では、チャネリングしましょう」


 そう言った暁人はスタジオの天を仰ぎ、ぶつぶつと何か呟いていた。


「ちょ、琴羽さん。この少年、一体何なの? チャネリングって何? は? 宇宙人って存在するの!」


 すっかりテレビ画面に引き込まれている翠。純粋というか、素直すぎる様子で、父は軽くため息までついていた。


「翠、宇宙人なんていないから。考えてみて。もし宇宙人が存在するなら、なぜ地球はこんなに毎日平和で、地球人同士でしか争いやっていないの? そんな広大な宇宙と宇宙人がいるなら、この長い歴史、ずっと何もないっておかしいでしょ?」


 琴羽の冷静なツッコミに、翠もようやく落ち着き、テレビ画面から目を離してはいたが。


「翠くん、聖書で勉強しただろ? 地上、第二の天、第三の天がある事を」

「あー、牧師先生! 思い出しましたよ。第三の天がいわゆる神様がいる天国、第二の天が悪霊、サタン、天使がいる領域ですね。ここがいわゆる宇宙って呼ばれている所だ。じゃあ、宇宙人=悪霊だ!」

「そうそう、翠くん。宇宙人なんていませんよ。宇宙人に拉致されそうになった人も、『イエス様!』って叫んだら、解放されたっていう話も効いた事ありますから」

「ですよねー。宇宙人なんていないし、この少年もやらせ? 売れない子役?」


 父と翠は呑気な会話をしはじめたが、琴羽は暁人の目をじっと観察していた。


 確かに良い翠の言う通り売れない子役の自作自演であろう。こんな不人気なオカルト番組に出ているという事は、親からもまともな教育を受けていない可能性もある。一概に暁人を責められないが、彼の目をじっと観察していると、雰囲気は明るくない。子供らしい快活さや明るさは皆無で、むしろ多くの悲しみや苦しみが見え隠れしているような目。


 そのおかげで暁人は妙な色気もあり、大人っぽさも漂っていた。これはクラスの中でもモテそう。何もこんなオカルトな宇宙人少年なんて演じなくても良いだろうに。


 琴羽は暁人に少し同情めいた感情も持っていた。父や翠のように、指を指して笑い物にはできない。


「お父さんも翠も、あんまりこの宇宙人少年ついて笑うの辞めた方がいいわ。そもそも親は何をやってるのよ。こんな番組に出させて笑い物にしているなんて。通報した方が良くない? この子、ちゃんと学校行ってる?」


 琴羽の冷静なツッコミに、翠も父もばつが悪そうだった。


「それにこんなオカルト的な事させているなんて何? ちょっとこの子、怖いわ」


 琴羽は暁人の映るテレビ画面を見れば見るほど、背中がぞくっとした感覚がした。


「まあ、琴羽さん。たぶん、売れない子役だよ。台本ありきでやってるって。俺の親戚にも似たような子役いたから」


 この場を和ませようとしているのか、翠がわざとらしく明るい声をあげた時だった。


 急に画面は暁人のアップとなり、こんな事を叫び、スタジオ内は異様な雰囲気だ。


「宇宙人に教えてもらったよ! S県T村の南にある湖に、女の人の死体がある!」


 暁人の声は何かに追われているかのよう。熱っぽっくスタジオの大人達に訴えていた。


「早く! 早く湖へ! 女の人の死体があるよ!」


 スタジオは騒然としたまま、放送が終わってしまった。まるで嵐のように過ぎ去ったが。


「何? 本当に湖に死体があるの?」


 この後、キッチンで夕飯作りもしていたが、翠はすっかりテレビの影響を受けていた。


「翠、そんなわけないでしょ。宇宙人なんて悪霊の嘘だから。幽霊と一緒よ」

「そうだけど……」


 いまいち納得していない翠だったが、この後、みんなで夕飯を食べ、再び父と聖書勉強や讃美歌の練習などしていたら、すっかり忘れていた。


 一方、琴羽はなにか嫌な予感がし、暁人の動画チャンネルやSNSをチェックしていた。


 動画は何十万と登録者があり、視聴回数も多い。どれも宇宙人とのチャネリング、前世、未来予言、陰謀論動画など非科学的なものだったが、熱心なファンも多く、何千コメントもついていた。


「僕はお空からママを選んで生まれてきたんだよ。前世は刑事でね、悪いやつを捕まえるために転生し……」


 前世や転生などを語る暁人は笑顔だったが、目は暗い。どうにも暁人から目が離せなくなっていた。


 余計なお世話だと思ったが、琴羽はSNSから暁人へDMを送った。自分が牧師の娘である事、悪霊祓いをしている事、オカルト的な話題に興味がある事。そして神様が暁人を見守り、愛している事も伝えた。


 なぜか伝えなければならないと思った。暁人の暗い目を見ていたら、手は全く止まらなくなる。


 おそらく毎日大量のファンからのコメントがあるのだろう。誹謗中傷もあるかもしれない。琴羽のコメントも誹謗中傷に分類され暁人の目に止まらない可能性の方が高いが、なぜか彼に神様の事を伝えたい衝動が来てしまった。


「うーん。届くかわからないけれど」


 暁人にDMを送った後、ふと我に返ったが、後悔は何もなかった。

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