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とある牧師の娘と御曹司のオカルト事件簿〜牧師の娘、御曹司とエクソシストはじめました〜  作者: 地野千塩
第四部 宇宙人少年エクソシスト事件

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第一話

 幸恵の事件も解決し、琴羽たちは平和だった。奇跡が節分、バレンタインも終わり、春の足跡も聞こえてくるようなある日。


 また、琴羽はエクソシストをしにいく事になった。依頼者は近所の能田という男だ。マンションをいくつか持っている大家だったが、事故物件もあり、元住人や近隣から心霊現象があると相談を受けたからだった。


 現場に向かったが、また築三年程度の綺麗なマンションだ。駅にも近い。家具も何もないワンルームで、南向きの窓からの日差しは心地いが、琴羽はじっと壁や床を観察していた。


「うーん。確かに悪霊の気配がするけど、雑魚よ。ここには、払うほどの悪霊はいないと思うわ。祈りと賛美で十分でしょ」


 同行していた翠にそう語る。翠も琴羽とすっかり二人でエクソシストするようになってしまった。今では教会に住みつき、牧師の父からは聖書もみっちり学んでおり、近所の人とも親しくなっていた。そのおかげか、服装や髪型も落ち着いてしまい、今はあり「イケメン御曹司」とドヤ顔していない。むしろ、近所のお兄さんというか、残念イケメンになっていた。今は近所の人からもらった手編みのセーターを着ているせいか、余計に垢抜けない雰囲気だ。もちろん、生まれつきの顔立ちの良さなどは全く隠せそうになかったが。


「そ、そうかな? 俺、このマンションの近所の人達から聞いたよ。首がない女の人に追いかけられたりするんだってよ!」


 翠はこのマンションの心霊現象について噂を収集していたらしい。噂の内容を思い出すと、明らかに怖がり、頬をヒクヒクとさせていた。


「ちょ、翠! 恐れてはダメよ。恐れは悪霊の足場になるから! 聖書に何回も恐れるな!って書いている意味わかるでしょ?」

「でも、でも、そんな噂を聞いたら!」


 翠は完全に恐怖に支配されているようだ。その場で腰を抜かし、子猫のようにカタカタと震えている。どうやら初めての事故物件エクソシストで、想像以上にプレッシャーを持っているらしいが。


「ちょっと、翠! あんた、エクソシストでしょ? クリスチャンでしょ? こんな事で恐れちゃダメ!」


 琴羽はすぐに翠に駆け寄り、こう叫んだが、手遅れだった。


 翠の恐怖心が悪霊の足場となってしまい、姿も表してくるではないか。


『呼んだ? ねえ、エクソシストのお嬢さん!』


 姿を現した悪霊は、噂通りの見た目だった。首のない女の姿で、下半身からは流血までしていたが、所詮、幽霊のフリをしている悪霊だ。おそらく目的は、そんなフリをしながら人々を怖がらせ、人からエネルギーや時間、勇気、生命力などを奪うのが目的だろう。聖書でいう悪霊は、人のそう言った力がないと存在できない。


 琴羽は冷静に対処した。この悪霊は、イエスの御名や聖書の言葉がとにかく嫌いなタイプらしい。幸恵の時と比べてだいぶ素直だったが、油断はできない。


「翠、こんなの雑魚の悪霊だから! とにかく恐れるな!」

「お、おお!」


 翠も明らかに聖書の言葉にビビる悪霊に、冷静さを取り戻したらしい。二人で聖書の言葉を悪霊にいい続けた。


『ちょ、何だよ、こいつら! 聖書の言葉なんて口にするなって!』


 悪霊は、その場で小さくなっていた。今ではこの悪霊の方が小さなリスのよう。


『いや、そんな私は聖書に負けないなら! 私はサタンを王とするすっごい存在だから。まるで神のようにね!』


 悪霊は負け犬の遠吠えのような発言を繰り返していたが、翠はここをついた。


「だから、キリストの力がわたしの内に宿るように、むしろ大いに喜んで自分の弱さを誇りましょう。それゆえ、わたしは弱さ、侮辱、窮乏、迫害、そして行き詰まりの状態にあっても、キリストのために満足しています。なぜなら、わたしは弱いときにこそ強いからです!」


 ちょうど聖書の第2コリントの12章という所だ。この聖書箇所を書いた使徒パウロは弱さを抱えていたらしい。それでも、その弱さがあるからこそ神の栄光が際立つと伝えている。世間ではさほど有名な箇所ではないが、ここが心の支えとなっているクリスチャンも多いだろう。


『ちょ、その聖書箇所引用するな! 嫌いなんだんだよ、あそこは!』


 悪霊にもクリティカルヒットしてしまったらしい。もう虫の息状態の悪霊だったが、行き場所を指定して追い出した。


「やったわ、翠! 大成功よ!」

「よし! 神様すげーってことだな!」


 今回のエクソシストも成功し、二人で笑いながら帰った。依頼主の常田にも感謝され、翠は少し天狗になっていたが。


「でも、翠。気をつけて。こうやってエクソシストとか、教会の仕事でみんなから褒められ、堕落しちゃった人もいるから」


 帰り道、少し気になったことを言う。


「え? そんなことあるの?」

「あるのよ。私だって、昔、依頼主から感謝されて、調子乗っていたら、一ヶ月ぐらいエクソシストも全く何もできない時が」


 隣で歩いていた翠は、顔が青くなっていた。


「そ、そんなことあるの?」

「あるわ。命はもろろん、健康、スキルなども全部神様からのものだよ。もし昂って私物化した場合……」


 その先は翠でもどうなるか察しがついたようで、神妙に頷いていた。


「そ、そうだな。俺が偉いんじゃないよな。全部神様がすごから、できた事か」

「そうよ。いくら人に誉められても忘れないで。気をつけて。傲慢は悪霊の性質だから」


 琴羽も深く頷く。


 そう思うと、先程翠が悪霊に向かった聖書の言葉は、より刺さる。もしかしたら、自分で何でも出来るよりも、弱い時、神様に助けられて生きる方がよっぽど恵まれているのかもしれないと思うほど。


 そんな事を考えつつ、スーパーで今日の夕食の食材も買い、家に帰る。もう日差しも赤く染まっていた。


「ただいまー」

「牧師さーん、ただいま、帰りましたよー」


 翠もそう言い、家に帰る。一時期は父に変な呼び方をしていた翠だったが、ようやく矯正できていた。


 さあ、これから夕飯の支度。少し琴羽も気を張りながら、キッチンに向かおうとしたが、父は大慌てでリビングから出てくるではないか。


「ちょっと、琴羽、翠くん! 大変だよ、テレビで変な少年が出ている!」


 普段は人畜無害の父が珍しく慌てている。急いで琴羽も翠もリビングへ向かう。確かに父が言うように、民放でオカルト番組が流れていた。


「僕は宇宙人少年の奥村暁人。さあ、これから、宇宙人とチャネリングして、未解決事件の犯人を見つけるよ!」


 テレビ画面の中は、無邪気に笑う少年がいた。


「は? チャネリング? 未解決事件?」


 あり得ないテレビ画面に、琴羽も変な声をあげていた。

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