プロローグ
「僕のせいだ……。ママがああなってしまったなんて……」
とある少年、奥村暁人は泣いていた。六畳ほどのリビングはペットボトルやお菓子の空き箱が散乱し、洗濯物も畳まれずに放置されていた。ずっと換気もしていないのか、空気も悪く、暁人が泣かなくとも十分湿っぽかった。
「ああ、ママ……」
暁人は十歳だ。小学五年生でもあったが、その年頃に似合わず、苦い表情だ。おかげでかなり大人っぽくも見え、ある種の色気もある。暁人はクラスメイトの女子たちから、キャーキャー騒がれている事も知っていたが、今はそれどころではない。
父親が数年前の亡くなり、暁人は母子家庭だった。兄弟もペットもいない。父親が生きていた頃は、そこそこ豊かなくらしだったが、今は全く違う。狭いアパートで、母親が受け取る障害年金や生活保護費でなんとか生活していた。
暁人の母は重いうつ病を患っていた。きっかけは産後鬱からの育児ノイローゼ。今日も母親は病院に通っていたが、暁人の表情は暗い。こうなってしまったのも、自分のせいだと責めていた。
「もし、僕がいなかったら、ママは病気にならずに済んだのかな?」
もちろん、母親は暁人を責めた事などない。それでも、布団の中で動けない母を見ながら、暁人は自分を責める以外の方法を知らない。
確かに福祉関係の人達は優しいが、それだけ。あくまでも「お仕事」だ。おそらく、母や暁人の将来がどうなってもどうでも良く、今が適当にやり過ごせばいいのだろう。言動や態度の端々に意識の低さが見え隠れし、暁人は大人たちにもウンザリだ。近所の主婦たちにも噂をされ、時には母が生活保護費でパチンコやホストに通っているという誹謗中傷も受けた。
その度に暁人の心は硬くなり、さらに大人への不信感を募らせていく。
「ああ、天使様。僕はこれから、どうしたらいい?」
暁人は天使に祈った。実は暁人は、子供の頃から、天使や悪魔、宇宙人、幽霊など目に見えない存在を可視化する事がで来た。
もちろん、母には言っていない。母だけでなく、誰にも言っていない。もし、こんな事を言ったら、母と同様、薬漬けになるかもしれない。根本的に暁人は大人たちを全く信頼していなかった。むしろ、子供の頃から可視化する事ができる天使、悪魔、宇宙人、幽霊の方が優しかったり、話が通じたりした。とくに悪魔に関しては、暁人の願いもよく聞いてくれた。「ママに暴力を振う父親を懲らしめて!」と願ったら、本当にそうなった時はより彼らを信頼するようになった。
『ねえ、呼んだ?』
こうして泣きながら祈っている時だった。暁人の目の前に、男が一人現れた。男は光に包まれ、顔は見えない。それでも声は優しく、暁人が理想とする「パパ」を具現化したような雰囲気だ。
「え、本当にきた?」
『ええ、暁人くん。暁人くんの願いを叶えにきたよ』
「本当!?」
その後、暁人は彼とあっという間に親しくなった。願いも叶えてもらった。誹謗中傷する近所の人、やる気のない福祉関係者を懲らしめてとお願いすると、すぐに聞いてくれた。さすがに殺しやしなかったが、暁人は満足だった。
だんだんと彼も正体も明かしてくれた。彼は宇宙人で、高次元的なスキルもあるという。ま本人は全知全能の神のような力もあると説明していた。
暁人は好奇心が抑えきれず、彼から命や死んだ後の話、前世や生まれ変わりの秘密もよく聞くようにまった。
また、彼の勧めもあり、動画サイトでチャンネル開設し、彼から教えてもらったオカルト話を発信するようになった。
これがまた大受けし、暁人は大人気になっていく。CMや舞台の仕事も入るようになり、人気子役と似たような立場だ。
今では「宇宙人少年・暁人」として大金も稼ぐようになり、ボロアパートから、今では立派なマンションに住んでいた。母の病も良くなり、大成功と言ってもいい。
その後、暁人があの彼に頭が上がらなくなった事は、言うまでもなかった。




