番外編短編・教祖誕生
正月休みのある日、琴羽は地元の本屋をぷらぷらしていた。
本当はキリスト関係の書店に行きたかったが、昨今は潰れている所も多く、仕方ない。
案の定、一般的な書店では聖書など全く置いてなく、年始という事もあり、占い本が大量に店頭に並んでる。他にもスピリチュアルや性的な本も堂々と売られ、日本独自な光景だろう。
漫画やライトノベルコーナーも悪魔や悪霊がキュートに描かれているものも多くため息が出たところ。
「お、ライト文芸コーナーで聖書ネタの作品がある!? アンソロジーだけど」
そんな中で聖書をテーマのしたアンソロジーがあり、琴羽の目が丸くなった。
と言っても中身は日本らしく色々と聖書が誤解された作品も収納され、やはり諸外国にはない光景だ。
「ふむふむ、これはイライラするね。エクソシストと聖書改竄をテーマにしたライト文芸書こうかね?」
思い立ったら琴羽は即行動していた。小説の書き方指南本を読み漁り、ライト文芸の王道設定を研究し尽くし、断食祈祷しながら「作家の賜物をください!」と祈り続け、約一週間で小説を仕上げ、WEB投稿サイトに連載を始めた。
マニアックな聖書改竄ネタとエクソシストを組み合わせた濃厚なホラータッチの小説を連載したところ、某カルト宗教のプロパガンダ作品と似ているんじゃ無いか等とクリスチャン界隈で炎上。
一方、狂信的な読者もつき、琴羽は読者の悩み相談やエクソシストも熱心に承っていたら、あっという間に書籍化が決定。わずか一カ月足らずの事だった。
狂信者達は琴羽を教祖のように祭り上げ、書籍化小説は10万部突破し、サイン会も開かれた。サイン会はアンチと狂信者達も集まり、殺害予告も打たれ、警察も出動するほどだったが。
こんな風に教祖化した琴羽に悪霊の影響は強かった
アンチと共に狂信者達の念が送られ、毎夜寝られなくなる程。
結果、琴羽自身がエクソシストを繰り返し、後始末をする事になった。
「とほほ。勝手に祀り上げられたとはいえ、教祖になんかなるもんじゃない」
エクソシストしながら琴羽もぼやきが漏れる。
そう、人を教祖など偶像視した場合、その本人が一番悪霊の影響を受ける事になる。アイドルが自殺したり、体調不良になりやすいのも、ファンから偶像視&教祖化されているからだ。
もし推しがいる場合は、偶像視&教祖化しない事が本人の為になる。そうなったら場合、性的な問題もつきものなのも厄介だ。アイドル関係の事務所が性的な問題やパワハラ的な問題を持ちやすいのもこの為だ。誰かに偶像視&教祖化された場合、より強いものに支配を受けるケースも多い。
そんな背景もあり、琴羽は必死に悪霊を追い出した。幸い、悪霊は追い出され、すぐに元の生活に戻ったが、琴羽の表情は疲労が濃い。
「いや、もう教祖なんて本当にこりごり……」
「琴羽さん、ドンマイ!」
今はそんな翠の呑気な声を聞くだけでも、ホッとしていた。




