番外編短編・影で泣いているかもしれない
クリスマスが終わっても琴羽達の教会にはクリスマスツリーが飾られたままだ。キリスト教的には、クリスマスはまだまだ続く。
そうは言っても、クリスマス礼拝も終わり、すず花の件も終わってひと段落。琴羽はボーっしつつ礼拝堂で聖書を読んでいた所、幼馴染の彩子がやってきた。
正直、さほど得意な人物ではない。専業主婦だが、夫は単身赴任中で酒臭い。子供もいないせいか、暇を持て余しているよう。
「琴羽、クリスマスケーキが半額だったわ〜。食べる?」
「え、まあ。そうね」
彩子と一緒にボソボソとした食感のケーキを食べたが、酒臭さに琴羽の眉間に皺が寄る。彩子は最近ずっと酒臭い。
少し心配になる。酒に溺れさせる悪霊もいるから。
酒もごくごく普通に楽しむ分には問題はない。健康に良い事もあるが、依存すると大変な事になる。
成功者の共通点は少ないが、人生が大変な人には共通点がある。偶像崇拝、異性、ギャンブル、そしてお酒。
「彩子、あんた大丈夫?」
心配したが、なぜか相手は反抗気味。明らかに悪霊の気配を感じた。
「日本人はこうしてクリスマスを祝って、その後に初詣行くって寛容で素敵」
こんな事まで言われたが、悪霊が彩子を通して言っているようだ。琴羽は笑顔で頷く。
「そうね。でも神社の神様が本当に寛容かは、見た目ではわからないよ」
「えー、そう?」
彩子は大袈裟にのけぞる。
「神社って案外参拝する為にルールあるわ。参道の真ん中歩いちゃいけない。風邪引いたら行ってはいけない。お賽銭も縁起の良い金額じゃないと願いを聞いてくれないんじゃなかったけ?」
琴羽は彩子の目を覗きながら、背後にいる悪霊の気配をより濃厚に感じる。
「寛容でなんでも許しているようでも、内心はクリスマス祝うなって怒っているかもよ? 他の宗教のイベント参加するって本当に本当に罰当たらないの?」
「そ、そうか?」
「普段優しい人のが怒ったら怖くない? 影で泣いてる可能性もあるんでは?」
そう表面的に言いながら、心の中では彩子の中にいる悪霊を縛る祈りを繰り返していた。
本当は声に出すべきだが、応急処置だ。仕方がない。
「あれ? 確かにそうか? なんか自分に早く気づいて欲しい、こんなに愛してるんだっていう神様の映像が見えたんだけど? 神様の顔は見えなかったけど……」
結果、彩子は首を傾げながら帰って行った。正直、酒臭い彩子が帰ってくれてホッとしたが。
「もしかしたら……?」
彩子が見た映像はもしかしたら、神社の神々ではない気もしたが、確かめる手段は無いだろう。




