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とある牧師の娘と御曹司のオカルト事件簿〜牧師の娘、御曹司とエクソシストはじめました〜  作者: 地野千塩
第三部 vs霊媒師!エクソシスト対決事件

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第九話

 上手くいかない事は続くのだろうか。幸恵の家から帰ってきた琴羽達だったが、教会の門や入り口、掲示板を見て唖然とした。生卵や生ごみを投げられた跡があり、硫黄のような匂いもする。翠は思わずハンカチを出し、鼻を押さえていた。


 ちょうど父も教会から出てきた。掃除道具と共に。


「お父さん、これは一体何なの?」

「そうですよ、お父さん。何ですか、これは?」


 隣でまた「お父さん」と呼ぶ翠にイラっとしつつも、今はそれどころではない。父と掃除を手伝いつつ、事情を聞くと、アンチの仕業らしい。蓮月との一件でアンチが増えたらしく、ついに今日、こんな行動に出たらしい。


「おそらく蓮月さんの熱心なファンだね。よく電話もきたから」


 父はさらに深いため息。一応警察にも相談してきたらしいが、逆に変な宗教とか言われ、まともに取り合ってくれなかったという。


「何それ!」


 思わず琴羽は頬を膨らませながら、掲示板についた生卵を雑巾でゴシゴシとふく。汚れは落ちてきたが、全く嬉しく無い。


 琴羽にとっては、子供の頃からよくある事ではあったが。小中学生の時は、神社参拝や地震祭の強制、飲食店でバイトしていた時は神棚を拝む事も強制された。そんな時は、日本国憲法も引用しつつ、宗教の自由を訴えたが、なかなか理解してもらえない事が多かった。時には不寛容な一神教の宗教、西洋の宗教とも誤解も受けた事を思い出し、琴羽の眉間には皺ができていた。


「まあまあ、琴羽。そう怒るなよ。復讐は神様に任せよう」


 父は呑気に口笛まで吹いていた。


「そうだって、琴羽さん。逆にこういうアンチがイエス様大好きになったら、最高に面白いじゃん? 使徒パウロだってアンチキリストだったんだ。それに幸恵さんみたいになりたい?」


 翠の言葉にハッとした。さっきまで対面していた幸恵の顔や言葉を思い出す。蓮月へ復讐を企む彼女は、決して美しくなかった。怒りを持っている琴羽の表情もそう。琴羽は急いでカバンから手鏡を出して見たが、想像以上にブスだった。平凡な顔立ちだが、眉間に皺、口角は下がり、ほうれい線も。何より目も暗いような……。


「そうだよ、琴羽さん! 復讐は神様がするよ! 『あなたの敵が飢えていたら食べさせ、乾いていたら飲ませよ。そうすれば、燃える炭火を彼の頭に積む事になる』。ローマ書の十二章に書いてあるじゃん!」


 翠は自分の服が汚れずのも構わず、笑顔で教会の門を拭いてきた。


 急に琴羽の頭も冷えてきた。同時に幸恵の門田も光が見えた。


 幸恵に憑いているのは、憎しみと復讐の悪霊だろう。悪霊の正体が分かれば、あとはその名前を出し、聖書の言葉で縛って追い出す事は可能か? 憎しみと復讐の悪霊は、先程、翠が引用したローマ書十二章の言葉に弱い。琴羽はエクソシストをやっていた経験上、悪霊がより嫌がる聖書箇所を知っていた。例えば、反キリストの悪霊は特に黙示録の言葉を異様に嫌う。


「翠、ひらめいたわ。もう一度、幸恵さんの宇へ行きましょう!」

「え? 今から? また?」

「ええ」


 翠の服を半ば無理矢理引っ張り、幸恵の家に舞い戻った。


「琴羽さん、今度は祓える?」

「ええ。ローマ書十二章の御言葉で戦いましょう! たぶん、幸恵さんに憑いている悪霊は、それが一番弱点!」


 幸恵のタワーマンションの長いエレベーターを乗り終え、小走りに彼女の家へ。


「あんた達、何?」


 玄関から出てきた幸恵は、琴羽達の姿を確認すると、明らかに不機嫌だった。


「また何の用? 宗教勧誘? これだから宗教なんて嫌だわ。日本人らしく寛容に、色んな宗教をつまみ食いするのが一番良いでしょう?」


 幸恵の発言にいちいち反応などしていられない。玄関先ではあったが、タワーマンションらしく広い。琴羽の家の風呂とトイレぐらいの広さはある。


 琴羽は再び幸恵の目を覗き込む。集中し、じっと見つめ、幸恵ではなく、その背後にいる悪霊に向かって静かに宣言した。


「あんた達、悪霊の正体がわかったわよ。憎しみと復讐の悪霊よね?」

「そうだぞ! 今から追い出しに来たからな!」

「ちょっと、あんた達何? 帰ってったら!」


 幸恵はまた琴羽達を無理矢理追い出そうとしたが、急に意識を失い、その場所で倒れた。


「幸恵さん!」


 翠の叫び声と共に、悪霊が姿を見せてきた。幸恵と瓜二つの悪霊だ。化て見せているのだろうが、正体はわかっている。


『そうよ。私は憎しみと復讐の悪霊さ。この女をのっとり、神が嫌いな罪をやらせようと思ってねぇ』


 姿を現した悪霊は全く悪びれず、倒れた幸恵の耳元で囁く。


『私が毎日、この女に悪い思考や言葉を植え付けて行ったからね。そう簡単にエクソシストのお嬢さんの好きにはさせないねぇ』


 悪霊は蛇のように舌を出していた。


『あんただって、何度もキリシタンという理由で嫌な目にあう事が多かっただろ? 西洋の宗教だってバカにされ、日本人は寛容な宗教観だとマウントされ、憎しみを持ったよね?』


 悪霊は琴羽にまとわりつき、誘惑を始めた。翠ではなく女の琴羽に誘惑をして来るのは、悪霊の典型的なパターンだ。琴羽は全く驚かず、冷静に、翠と共にローマ書十二章の御言葉を宣言し、誘惑をはねた。


『うるさい! 神の言葉などこっちに言ってくるな!』


 案の定、悪霊は動揺し始め、耳も塞ぐ。


『でも、こんな幸恵なんて助けても、どうせ西洋の宗教とか言って感謝なんてしなわぁ。どうせまた神社行くよ? 占い師や霊媒師のところに行くよ? それに、神様が復讐してくれるって本当? ねえ、本当!?』


 神様の言葉を疑わせるような誘惑をして来るのも、典型的な誘惑だ。その上、悪霊は耳を塞ぎ、琴羽や翠が口にする聖書の言葉を無視し始めた。


『私、バカだから聖書の言葉なんてわかんなーい!』


 幸恵の姿でぶりっ子までし始める悪霊に、琴羽と翠は目を見合わせる。二人とも聖書の言葉を大声で宣言している為、声が掠れ、汗もだくだくだったが、ここで負けるわけには行かない。


『そうよ、神様の言葉なんてわかんなーい! 私、バカだからぁ。ふふふ!』


 耳も塞ぎ、ヘラヘラと笑い始めた。


「どうする? 琴羽さん」

「まだ武器はあるわ、落ち着いて。こんな時は、讃美歌で行きましょう!」


 耳を塞いでいた悪霊だったが、讃美歌を歌い始めると、再び動揺し始めた。


『ちょ、何、こんな歌、歌ってんだよ!』


 ぜいぜいと息を切らしながら、反抗する悪霊だったが、明らかに思考が乱されていた。


「翠、歌いながら、聖霊の炎が悪霊を焼いてるイメージもしましょう!」

「オッケー!」


 人間の思考、イメージする力も武器になる。讃美歌を歌いながらも、悪霊が聖霊の火で焼かれているイメージを続けた。


『ちょ、何、そんなイメージまでしてるんだよ! やめろおおお!』


 この攻撃には、悪霊もかなり弱まっていた。


「翠、気を抜かないで! 最後の仕上げ!」

「おお!」


 蓮月の時は、この最後の仕上げで失敗したが、最後まで翠と力を合わせて悪霊を追い出した。


『ふざけるなよ!』


 最後まで暴言を吐いていた悪霊だったが、姿は手の平サイズほどに小さくなり、琴羽の命令通りに出て行った。


 琴羽も翠も汗だくだ。今が冬であるのが信じらない程だったが、とりあえず二人とも安堵し、倒れている幸恵の側に駆け寄った。


 意識は朦朧としていたが、家のソファまで運び、水を飲ませると、回復してきた。命には別状は無いだろう。


 目覚めた幸恵の目は憑き物が取れたように、さっぱりとしていた。


「あれ? 私、一体、何をしていたの……?」


 ソファから起き上がり、壁に貼ってある蓮月のポスターや藁人形を確認すると、顔を真っ赤にしているぐらいだった。


「あぁ、私、なんて事してたの。恥ずかしい。こんな呪いなんてしても、夫はこの家に帰って来ないのに」


 驚いた事に、幸恵は壁の写真や藁人形を全部片付け始めていた。


「蓮月さん、ごめんなさい。恨んでしまってごめんなさい……」


 幸恵の変わりようには、琴羽も翠も言葉を失ってしまう程だった。


「琴羽さん、これで解決?」

「そうね! あ、私達も掃除、手伝おう!」

「そうだな!」


 琴羽も翠も笑顔で頷くと、幸恵と一緒に掃除を初めていた。年明けの一月にする大掃除も悪くないだろう。

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