第四話
「へえ、あんたちエクソシストってやつなの!?」
蓮月のオフィスは、森や湖の近くにあるわけではなかった。都心から少し離れた郊外の街にあった。琴羽の家からはタクシーで一時間ほどだが、ここも翠の御曹司特権に受ける事にした。普段はタクシーでの移動など絶対にできないものだ。琴羽は少し車酔いもしてしまったが、翠は慣れたものだった。
タクシーは蓮月のオフィスがが行った雑居ビルに前につき、さっそく二人で向かう。周りも雑居ビルが多く、飲食店やマッサージ店、コンビニなどごちゃごちゃとした郊外の街だった。タクシー運転手によると、戦時中、運良く空襲を逃れ、闇市もあったそうだ。都市開発もされたが、当時のごちゃごちゃとした雰囲気は残っているらしい。
とはいえ、蓮月のオフィスはシンプルそのもの。受付でアシスタントという女にも会い、通された。このアシスタントは、ピンク色の髪に、革ジャンにニーハイ。ロックバンドの追っかけのような雰囲気の若い女で、名前はミサキという。翠がまず自己紹介したら、エクソシストをしているのかと大騒ぎしていた。
「そうだよ、俺。琴羽さんとエクソシストしているのさ!」
「キャー、イケメン!」
騒がしい二人に琴羽は頭痛がしてきた。
「そもそもミサキさん、あなた蓮月さんのアシスタントでしょう? 彼女のところに案内してくれる?」
水さすような気分だったが、ミサキもすぐに仕事に戻り、オフィスの応接間に案内された。ここもシンプルな様子で、一般的な応接間と大差ない。霊媒師のオフィスということで気を張っていたが、琴羽も翠も拍子抜け。しかも蓮月はクライアントのヒーリングセッションが長引いているらしく、しばらく待たされる事になった。
ミサキが持ってきたチョコレートクッキーやコーヒー。甘いものが好きな翠はすぐにクッキーに飛びついたが、琴羽は冷静だった。ミサキからも何か情報が聞き出せないか考えた。
「霊媒師ってヒーリングセッションみたいな事もしているのね。すごいわ」
完全にお世辞だったが、ミサキはニコニコと機嫌が良くなった。それでなくてもイケメンの翠に目がハートになってる。これは何か聞き出せるかもしれない。
「ええ。といってもお客さんは復讐希望の人が多いね」
「復讐!?」
チョコレートクッキーに夢中になっていた翠だが、ミサキの発言にゴホゴホとむせていた。
「復讐って何? どういう事?」
「先生の人気メニューですよ。一回で三百万円もしますけど、先生が幽体離脱をして、対象者に呪いに行くんです」
「幽体離脱って!」
翠は余計にむせていた。琴羽は翠の背筋をさすりつつ、水を飲ませた。
「幽体離脱なんて出来るのか?」
ようやく落ち着いてきた翠の疑問はもっともだ。
「できますよ。先生に言わせると条件がそろえば出来るんだって。うっかりしていると、肉体に戻れなくななるとか」
ミサキはそう言うと、仕事があるからと別室へ。
「なあ、琴羽さん。琴羽さんは驚いていないね。幽体離脱なんてさすがに非科学というか、信じられないんだが」
隣に座っている翠は頭を抱えていたが。
「あり得るわよ。クリスチャンの中には元々オカルトや悪魔崇拝やっていた人もいるからね。その人達によると、幽体離脱して病院やバーに行って、人々を呪っていたとか」
「マジで、超怖いんだが」
「ぬるい信仰のクリスチャンも呪いに行ったとか。麻薬中毒の人なんかは隙が多いそうだから、呪うのはあんまり面白くなかったそうよ」
「何、その話! あり得ないけど、怖いから!」
「大丈夫」
これから敵の霊媒師に会うというのに、翠はすっかり怖がってしまっていた。この情けなさに琴羽もため息が出てくるが、希望はある。琴羽は余裕たっぷりの笑みを見せた。
「そんな悪魔崇拝者達によると、クリスチャンが祈ったり、讃美歌を捧げている所には、一歩も侵入できなかったそうよ」
「え!? 本当!?」
「ええ、聖霊の火が城壁となっていたらしい」
聖霊とは神様の霊をさす。三位一体の一つでもある。聖書では風、水、火などとも比喩的表現がされ、イエス・キリストを信仰するクリスチャン全員の心に宿っているとされる。
「そっか。なら怖がる事もないよな」
この話を聞き、翠は少し頬を赤くし、髪をかいていた。
「ええ。怖がる事は無いわ。とにかく今も祈りましょう」
そして翠と二人で祈った。もちろん、神様は目に見える存在ではない。それでも翠と二人で祈っていると、より琴も安心してしまった。翠もすっかり落ち着きを取り戻す。
「まあ、大丈夫よ。私達は神様が味方。これって最強って事では?」
「そうだよな。こんな霊媒師なんかに負けないぞ!」
翠の明るい声が響いた時だった。ちょうど応接室の扉が開く。ガチャとドアノブの音と同時に誰か入ってきた。
蓮月だった。テレビに出ている時と同じく、派手なアイシャドウや口紅だった。ワンピースやストールも派手だ。おかげで年齢不詳の怪しい女だったが、霊媒師の出立ちとしては正解なのだろう。むしろ、シンプルにまとめているオフィスの方が違和感があるぐらいだが。
「あなた達……」
蓮月は翠と琴羽の姿を確認すると、顔を青くしていた。目も虚ろになり、化け物にでも会ったような顔だ。
「初めまして。蓮月さん。あの例のコーヒーメーカーのタンブラー、ありがとうございます。感謝します」
琴羽はわざと丁寧な言葉をつかい、わざとらしい笑顔を見せた。
「ええ、ありがとうございました!」
翠もそんな琴羽の意図を汲み、キラキラのイケメン御曹司スマイル。
これだけでも蓮月は後ずさっていたが、向こお負けてはいない。
琴羽達の前のソファに座り、顔を上げた。
「ええ。初めまして。私が霊媒師の蓮月紀香よ」
その声は少し震えていたが、蓮月の目は据わり始めていた。




