番外編短編・悪霊は光の天使を装う
「転職先はどう?」
「絶好調ですよ! すごい楽しい!」
田中悠人が笑顔で頷く。
今日も礼拝堂のすみで彼と一緒にお茶していた。田中は教会に文句を言いに来たアラサー男だったが、いつのまにかお茶友達となり、悪霊も払って親しくなった。最近は転職に成功しご機嫌だったが、琴羽は心配事がある。
祓った悪霊は帰って来る事がある。特に田中のような信仰心のない一般人にはそのリスクが高い。なので琴羽はさりげなく田中の生活状況を聞く。
「こんな事聞いたらだいぶ失礼だけど、依存的にハマっているものとかある? 推しとか?」
「いや、ないっすね。推しとかないし。酒もタバコもしない」
「ポルノは?」
ポルノ視聴も悪霊の足場となる。
「いや、最近はないけど」
「どういう事?」
急に田中の口調が弱まってきた。目も泳いでいる。
「前、エロ画像を一日中検索していて」
「そう」
琴羽は特に驚かない。クリスチャンなら珍しい事だが、一般的なアラサー男なら普通だろう。
「したら、急に目の前に死んだじいちゃんが現れたんだ。じいちゃんは俺の事を応援してるって言ってさ」
田中は目に涙を浮かべていたが、琴羽の目は白ける。一般的に幽霊と言われているものは、全部悪霊だ。死んだ人間の記憶をパクリ、その人のふりをしている。昔流行ったオレオレ詐欺みたいなもの。悪魔は一見人畜無害に現れる事もある。いや、むしろ人間の目には良きものとして来る事が多いだろう。聖書にも書いてあるが、悪霊は光の天使を装うのだ。
「じいちゃん、ああ、俺は頑張るよ!」
「ポルノを見ていた時に現れる幽霊ってどんな?」
呆れてしまうが、ポルノが足場になっている悪霊と関わりがあるのは確か。しかも貧困の悪霊を祓った後だ。強いものを連れて帰ってきたかもしれない。
「はあ? じいちゃんの幽霊が悪霊!?」
「そうよ。死んだ人は全員この世にはいません」
「そんな、馬鹿な」
田中は怒っていたが、このまま放置はできない。田中の住むワンルームマンションへ向かい、自称・じいちゃんの幽霊と対面する事にした。翠も誘いたかったが、残念ながら海外でバカンス中だった。
案の定、厄介な悪霊だったが、聖書の御言葉で追い出した。
最後にイエス・キリストを侮辱する暴言も吐いていたが、エクソシスト中に寝ていた田中は目を覚ましたらしい。
「うちのじいちゃん、キリスト教とか全く興味ない人だった。そんなイエスの悪口言ってるのはじいちゃんじゃない……」
「でしょう?」
ようやく幽霊=悪霊だと腑に落ちたらしいが、もうポルノも控えるという。
「それにポルノ視聴している時に現れる幽霊はおかしいよな」
田中は苦笑し、琴羽と笑顔で握手を交わしていた。




