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とある牧師の娘と御曹司のオカルト事件簿〜牧師の娘、御曹司とエクソシストはじめました〜  作者: 地野千塩
第二部 呪い人形のエクソシスト事件

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番外編短編・貧困の悪霊エクソシスト

「琴羽さーん、どうしよう。困りました!」


 田中悠人の情けない声が礼拝堂に響く。


 彼はクリスチャンではなく、むしろ日本人らしく八百万の神を拝む者だった。年齢はアラサーぐらいだが、とある事をきっかけに教会に文句をつけに来て、なぜか毎日のようにお茶やお菓子も楽しみに来てしまい、すっかり親しくなってしまった。


「どうしたのよ、田中さん」

「実は失業してしまい、他にも色々と無駄な出費があり、やばいんですよー」


 田中は涙目だった。聞くと家計は火の車。他にも詐欺にあったり、怪我や病気もあり、突然の自然災害に巻き込まれたり、ふんだり蹴ったりらしい。


 その話を聞きながら琴羽は霊的に何かピンときた。田中の目を覗き込み、貧困の悪霊が憑いている空気が濃厚だと気づく。


 そうはいっても田中はキリスト教も嫌いだろう。ここでエクソシストをしても何倍にもなってかえって来る可能性が高く、とりあえず今はそっとしておく事が良いだろうか。


 それでも一応、貧困の悪霊について説明する。聖書でいう悪霊にもキャラクターがあり、貧困だけでなく、死、病気、不倫、人間関係の破綻を引き起こすものがいる。多くはその正体を突き止め、名前を言うとエクソシストは成功したと言っていい。その悪霊のキャラクターにそった聖書の御言葉で祓う。これが基本的なエクソシストの方法。


「八百万的に言えば貧困の悪霊=貧乏神よ」


 わかりやすく田中に伝えると、彼は脱力していた。


「八百万でも貧乏神とか、死神とか、性的に乱れまくっている女神とか、あなたに直接害を与える神様を寛容な心で敬える? どう?」


 普段は優しく田中に接していたが、このままだと酷い目にあう。無駄だと思いつつも、琴羽は一応忠告をしておいた。


「そ、それは微妙だな……」

「でしょう? どうする? 貧困の悪霊払ってもいいけど、どうする?」


 結局、田中に憑いている貧困の悪霊をエクソシストすることになってしまった。田中に泣きつかれるし、特に信仰心はなさそう&悪霊がかえってくるリスクも高そうだったが、応急処置だ。仕方がない。


 その後、田中の無駄な災難は終わったらしい。


「貧困の悪霊ってなんですかー。この聖書の言う事ってマジですか?」


 もう田中の目からは悪霊の気配はなく、こうして聖書の学びも一緒にやるようになってしまった。


 今のところ悪霊が田中にかえってきた様子はなく、意外と聖書の飲み込みも早い。


「琴羽さーん! 転職成功しました! 年収が百万アップです!」


 そんな報告も聞くようになった。


「今は貧乏神を敬える? 寛容な心で」

「それは無理っすね!」


 田中の調子の良い声が礼拝堂に響いていた。


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