エピローグ
エクソシストを終えたクリスマスイブから数日後。もう年の瀬だ。
琴羽も仕事納めだ。同じ部署の正社員達は、飲み会を開くと言い、花岡からも一緒にどうかと誘われたが、丁寧に断り自宅に帰ってきた。
今日はすず花があの後の報告をしに、教会に来る予定があったから。翠は仕事が長引き、牧師の父も急用が入ってしまい、琴羽が一人で対応する事になった。
礼拝堂のクリスマスツリーはまだ飾られたままだ。厳密には、年明けの節までキリスト教ではクリスマスを祝って良く、ツリーはその日まで飾っても良いのだが。
今日のすず花はツリーを見る目が優しくなっていた。以前、ここに来た時は、睨みつけ、文句も言っていたものだが。
実際、刺々しい雰囲気も少し取れたのか、今日は薄いピンク色のセーターを着ている。
「すず花さん、あれ以来大丈夫? 美穂ちゃんは?」
「ええ、何の問題も無いです」
すず花は軽く笑うと、子供の頃の痛みも祈ったり、悔い改めたりしているらしい。
「うちの親、厳しかったのよね。子供ながらにストレスも酷くて、空想の友達作って遊んでいた事も思い出したわ。はは、美穂と全く同じ事してたの」
ここですず花は下を向いたが、子供の頃のことも全て神様に告白し、祈っていたら、心の傷も癒やされた感覚があったらしい。同時に美穂の空想の友達も綺麗に消えてしまったという。
「不思議ね。親の精神も子供に影響するの?」
「ええ。魂は繋がってますから」
「そう……」
すず花は下を向きつつ、クリスマスイブの日も祈りの力を実感したという。
「やっぱり、みんなで祈るといいの? 無教会派はやめようかな」
「うちの教会なら、いつでも自由に入れます。合わなかったらすぐ辞めてもいいし」
「そうね。そうかも」
ここですず花はようやく顔を上げた。まさに憑き物が取れたようにスッキリとした顔だ。佐伯の件も、批判するのではなく、長い目でも守ろうと言う。すず花は佐伯の冴子の件などは全く知らないようだったが、わざわざ琴羽が教える必要はないだろう。佐伯も自分の口からレミナや冴子の件を説明した方がいいだろう。
「琴羽さん、ありがとう。翠さんにもよろしくお伝えてください」
「ええ。こちらこそ、本当に役に立てたか知らないけれど」
「ふふ、あなた達は立派なエクソシストよ。美穂もそう言っていましたから」
こうしてすず花と別れた。この悪霊騒ぎも一件落着だ。この様子ではすず花に悪霊が戻る様子もなさそうで、ホッとした。
「琴羽さーん!」
その数分後、翠がすず花の入れ替わりのように礼拝堂へやって来た。片手には寿司やチキンの箱も持っている。どうやらクリスマスイブにできなかったパーティーをやり直したいそう。
「そうね。クリスマスパーティーやり直しますか」
「やろう、やろう! 今日は仕事納めだし!」
翠はいつになく機嫌が良い。年末年始はこれから家族で海外旅行だそう。セレブなプランも聞かされ、琴羽がポカンと口を開けてしまうぐらいだ。
そうは言っても、二人でゆるく始めたクリスマスパーティーは楽しい。途中で帰宅した父とも合流し、和やかに時が進む。
ふと、琴羽はあの御言葉を思い出す。「友の為に自分の命を捨てること。これ以上の愛はない」。
もし、エクソシスト中、翠が絶対絶命のピンチになった時、自分の命を捨ててでも助けられるだろうか。
たぶん無理。琴羽はそこまでの成長はしていない。
それでも隣で無邪気に笑い、チキンを食べている翠の横顔を見ながら思う。
二回もエクソシストを一緒にやり遂げ、友のような絆があるのは確かだ。
「ねえ、翠。これからも一緒にエクソシスト頑張りましょう。来年もよろしく」
「おぉ。来年もエクソシスト頑張るぞ!」
翠はわざとらしく、腕を上げた。そんな翠を見ながら、琴羽も父もクスクスと笑い合ってしまうぐらい。
そうだ、来年もエクソシストを頑張ろう。友達のような絆が生まれた翠だったら、何があってもきっと大丈夫。
「友のために自分の命を捨てること。これ以上の愛はない」(新約聖書・ヨハネの福音書15章13節より)。




