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とある牧師の娘と御曹司のオカルト事件簿〜牧師の娘、御曹司とエクソシストはじめました〜  作者: 地野千塩
第二部 呪い人形のエクソシスト事件

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第一話

 クリスマスが近づいているとは言え、いつも通りの朝だ。今年は暖冬なのか、あまり寒く無い。仕事も去年よりは多くないし、御曹司の翠は正式にクリスチャンとなった。


 会社でも御曹司ファンの女性に伝道いるらしく、クリスマスに教会にも来てくれる事となった。不思議な事に事情を話すと、琴羽に対しても変な嫉妬心や敵対心を持たれる事もなかった。例の花岡も退院し、もうすっかり仕事は順調といえよう。


「よーし、オムレツできた!」


 琴羽はキッチンで朝食の支度をしていた。今日はトーストとオムレツだが、せっかくクリスマスが近い。ケチャップでオムレツに「メリークリスマス!」と書いてニヤニヤ笑ってしまう。


 こうしていつものように食卓に持っていき、食前の祈りをしてから、二人で食べ始めた。


「でも琴羽。クリスマスは別にイエス様の誕生日ではないよ」


 人畜無害そうな優しい見た目の父だったが、時々リアルな事を言う。


「本当はローマカトリックが異郷の祭りをパクったんだから」

「もうお父さん! そんな事はクリスチャンはみんな知ってるしー。イエス様がこの世に救いに来たことを喜ぶ記念日で良くない? っていうかそういう意味では毎日がクリスマスって事でいいんでは? それに聖書には機会を活かせとも書いてあるし、クリスマスも活用すればいい気がするよ」


 機嫌が良かった琴羽だが父から水をさされ、口を尖らせてしまう。


「まあ、クリスマスは伝道活動のいいチャンスと思って利用するのが一番だわな」

「そうよ、お父さん! クリスマスを批判してスリーしたって別にウチらが敬虔な信者になれる訳じゃないしねー。地域教会としてクリスマスは福音を伝える日にしましょう!」

「そうだよな。っていうか琴羽。なんか明るくなったかい? 脳筋になったというか?」

「そう?」

「そうだよ」


 そう言われてみたら、そうかもしれまい。翠と親しなり、一緒にエクスシストをする事に決めた。そんな翠は金持ちの御曹司らしく、ちょっと子供っぽくあり、自由で無邪気な性格だ。今は筋トレにハマり、腕もムキムキ。そんな翠に知らないうちに影響を受けたのかのしれない。確かに父の指摘通り、少し明るくなってきた自覚はあった。


「そうだよ。やはり人と人との出会いは良いもんだよ、琴羽。きっと神様が出会わせたくれた人達だろう」

「そっか。そう思うと出会う人全員を神様と同じように接したいね」


 琴羽はそう言い、オムレツを食べた。ふわりと優しい味だ。琴羽も嫌いな人も多かったが、クリスチャンにエクスシストをしている今は、できるだけそんな思いを持たないように気をつけていた。


「お、朝のドラマ、ちょっと退屈だな」

「お父さん、チャンネル変えていいから」

「よし、ニュースでいいか」


 父と一緒に見ていたテレビは急につまらなくなり、チャンネルを変える。お堅いニュース系の番組に変えた。朝から社会の貧困や格差ばかり報道している番組だった。エンタメ的要素は皆無だが、しっかりと真面目な作りで親子揃って嫌いではなかった。教会には貧困、虐待、いじめ、自殺未遂など重い問題を抱えている人も多くくる。社会問題を軽視できない事情もあった。特に父は生活保護や失業保険、年金などもやたら詳しい。牧師の意外な一面かもしれない。


 しかし、今日の話題は親子ともども微妙な表情だ。


「さて、今日は新しい愛のカタチをお伝えします」


 アナウンサーの言葉の後、性的マイノリティのさまざまなケースのドキュメンタリーが流れていた。同性カップルの苦悩や差別、恋愛感情が全く持てない若者などなど……。


 琴羽も父もついに無言で朝食を食べ始めた。テレビの音声と共に、小さな咀嚼音が響くのみ。


 こういったマイノリティ問題はクリスチャンの立場からすると複雑だ。何か言ったら差別になりそう。逆に擁護したら、同じクリスチャンからの攻撃も多く、何も言わない&静観し、教会は誰でもウェルカムというスタンスの所が多いかもしれない。同じキリスト教会でもさまざまなな宗派があり、マイノリティ問題を積極的に取り上げている所も多い。逆に原理主義的な教会もある。クリスマスを祝うかどうかでさえ足並みが揃わず揉める。


 エクスシストをしている琴羽からすると、こういったマイノリティ問題も霊が関わっている可能性が高い。エクスシスト後、恋愛自体に興味が失せたり、異性愛者になったクライアントを何人も見てきた。


 だからといってマイノリティ問題を抱えた人が殺人や不倫などの結果でそうなった訳でもない。多くは幼少期についた心の傷、思春期の問題、虐待、いじめ、失恋などがきっかけ。心の傷も悪霊の足場になってしまうのだ。一般的に罪に見えないものも、霊の世界ではそうなっている事も多く、なかなか難しい問題。生まれつきマイノリティ問題を抱えている事もあるが、この多くは親や先祖の咎が半分ぐらいが原因だ。


 今のところ琴羽はそのケースには合った事は無いが、エクスシストをしているからこそ、マイノリティ問題についてはケースバイケースで、特に発言できない自覚はあった。


 こんなテレビの内容に親子ともども沈黙している時だった。最後のケースとしてT県在住の佐伯雄太さん(35)のケースが流れた。


 佐伯は元々ブラックな職場にいてトラウがあった。その結果、心が傷つき、AIアイドルのレミナに本気で恋をしてしまったという。自宅にあるレミナのフィギアやドールを本当の恋人のように接しているとか。二次元の存在の恋をする存在フィクトセクシャルという。


 これには琴羽も父も完全に沈黙してしまった。特に父は新しい価値観に全くついていけない。絶句してる。


「た、確かにAIアイドルのレミナは可愛いけど」


 琴羽もどうでもいい事しか言えない。老けない・スキャンダルがない・炎上しないアイドルとし、お茶やチョコの広告にも出ている。金髪で目も大きく、本当に人形のように可愛らしいルックスで、人気があるのも当然だろうが。


 佐伯は深い深いレミナへの愛を語り、満足そうに目を細めていた。その姿は幸福そう。佐伯の黒い目は誰にも文句は言わせない、永遠にレミナを愛し抜くという堅い意志も透けて見えていた。誰が佐伯に文句をいえようか。琴羽ですら絶句してしまう。


「それに僕、レミナと結婚式を挙げる予定なんです」


 その佐伯の発言は、絶句どころか父も琴羽も固まった。


 その上。


「クリスマスに式を挙げようと思っています。ちゃんとチャペルを貸し切って牧師さんも呼びますよ」


 なんて発言され、琴羽は「はああ?」と叫び、父はプルプルと震えていた。


 キリスト教で結婚は神聖なもの。神と人間の永遠の契約を人間の男女に置き換えたものとも表現される。クリスチャンはキリストの花嫁とも表現されるぐらいだ。なので、佐伯がしようとしている事は悪い冗談にしか聞こえない。


「で、でも。うちの教会に依頼があるわけでもないでしょう。か、関係ないよ」

「そ、そうだよ。か、関係ないさ!」


 親子ともども動揺していたが、琴羽がもう会社へ行く時間だ。


 さっさと支度も済ませ、会社へ向かう。


「そう、関係ない。忘れよう」


 佐伯の事は全部忘れる事にした。その為に仕事も一生懸命終わらせ、花岡から涙目で褒められるほど。


 こうしてあっという間に定時になり、家に帰った。礼拝堂に方へ向かうと翠も来ていた。聖書勉強の途中だったらしく、父と一緒に机に齧り付いていた。


「二人とも頑張ってるね。お茶とクッキー出しましょう」


 琴羽はそんな二人の為にお茶と菓子の準備を始めようとしたところ。チャイムがなった。勉強中の二人の邪魔できない。琴羽が礼拝堂から一階に降り、教会の門を開けた。


「こんばんは。実はこちらの教会に依頼したい事がありまして」


 驚いた。


 そこには朝のテレビに出ていた佐伯が立っていたから。清潔感にあるスーツ姿で髪もきちんとしていた。姿勢もいい。ヲタクというよりは、一昔前の草食男子といった雰囲気の男だったが、ぬいぐるみを抱っこしていた。AIアイドルのレミナをミニキャラ化したぬいぐるみだった。そこだけ濃密なヲタク風空気を発信している。


「と、とりあえず、教会へ。礼拝堂の方へ行きましょう」


 琴羽はそうとしか言えない。顔は引き攣り、目は光が抜けていたが。


 背筋もぞくっとする。嫌な予感しかしなかった。

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