番外編短編・三位一体と卵
今日もまた翠と聖書勉強中だった。正直なところ、仕事を終えた後も翠の顔を見るのは楽しくはない。仕事の延長のような気分になってしまうが、翠は飲み込みも良く、カンも鋭いので教えがいがあった。
そんな時、チャイムが鳴る。お隣の奥さんから、生卵をたくさんいただいてしまう。なんでも最近田舎で週末過ごしているらしく、そこで放し飼いの鶏が卵をたくさん産むのだとか。
「わあ、自然派なオーガニック卵ですね! ありがとうございます!」
卵を貰えてホクホクだ。バスケットの中に入った卵は、確かにスーパーの商品のような綺麗さはないが、素朴な雰囲気もあり、これは絶対美味しい卵だ。オムレツにしようか、卵焼きにしようか、ホットケーキを作ろうか悩んでしまうぐらいだった。
「へえ、卵貰ったんだ」
翠もバスケットの中身を覗き込み、満面の笑み。ちょうど夕飯時でもある。
という事で琴羽の家に向かい、卵料理を作って二人で夕飯をとる事にした。メニューは悩んだ末、卵焼きに決定。あとはご飯でTKGにすれば完璧だ。
おかげで食卓は黄色の面積が広いが、琴羽も翠も笑顔で食べる。
「そう言えば三位一体の神様って、卵で例えて説明する事が多いね。カラ、白身、黄身も三つで一つ。父、子、聖霊も三つで一つで三位一体」
卵を割入れ、ほかほかご飯にかけながら琴羽は語る。
「でも、聖霊って俺、いまいちわからない。父は創造主の神様、子はイエス様。聖霊は?」
「神様の霊よ。イエス様を信じた人全てに宿る霊。炎、風、水にも例えられるけど、確かに聖霊様の概念は難しいわ」
「そうなんだよなー。でも、讃美歌とか歌っていると、なんか胸の奥が喜んでる感じがする。もしかしたら、これが聖霊様?」
「わからないけど、聖霊様についてはもっと勉強していきましょう」
「そうだな!」
そんな事を話しつつ、食事も進む。黄色い面積が多かった食卓も、だんだんと空になって来たが、翠はまだ食べ足りないらしい。ご飯をお代わりし、また卵を割っていたが……。
「なんだ、この卵!?」
翠の驚き声が響く。なんと黄身が二つある卵dsった。いわゆる双子卵。
琴羽も驚くが、卵をくれた奥さんが「双子ちゃんもあるよ!」なんて言っていた事も思い出す。さほど珍しい事ではないのかもしれないが。
黄身が二つの卵を見て思う。今までは卵を例えの三位一体を説明していたが、こんな双子卵があるとは……。
「私、卵を例えにして三位一体を説明するのは辞めるわ」
「は!?」
突然の琴羽の宣言に、翠は目を丸くしていた。
とはいえ、自然派の田舎の卵は夢のように美味しく、食卓の上は全部空になってしまっていた。