第三話 新生活スタート
進みますよ〜
キリサメはこれからしばらくは過ごすであろう部屋にたどり着いた。
部屋のドアを開けると、6畳ほどの一人で使うには贅沢な空間が目に飛び込んできた。そこには本棚、デス
ク、剣立て、ベッド、生活に必要なものは大体揃っていた。
もちろん真っ先にやることは、、ベッドにダイブ!「ふぅ」とため息をついて今日会ったことを振り返る。
......いろいろあったなぁ、、急展開すぎて頭がついていかない、、もうねむい、、
そうして目の前は真っ暗になった。
ーー...サメ...キ....キリサメ!キリサメはカナラ丘のてっぺんで立っていた。
呼びかけているのは18歳の姉。「ちょっと来てほしいところがあるの、いい?」
「いいよ!」元気よくキリサメは答える。ついたところは姉がいつも使っている稽古場だ。
姉は腰の剣を抜く。「どうしたの?おねえちゃん?」
「いい?ちゃんと見てるんだよ?」
「うん!」
「はぁ!!!!!」姉は掛け声とともに剣をふるった。全部剣の振り下ろす角度が違うはずなのに
すべての技がつながっているように見える。しかし全く殺意や勢いを感じない。
まるで優しく温かいお天気雨のように。私は姉が技を繰り出している間一瞬も瞬きをしなかった。
しなかった、というよりできなかったが近い。それくらい綺麗だった。
剣を鞘にしまったあと
「いい?お姉ちゃんはしばらく旅に出るの。それまでこの剣はあなたが持っていて?約束だよ?」
「この剣はね、天泣の剣って言うの。雨はね、空が泣いているっ、って表現ができるの」
「この剣の本当の意味を知った時、あなたはずっと強くなるわ」
「おねえちゃんどっか行っちゃうの??てんきゅーの剣???」
「うん。心配しないで、すぐ戻るから!剣だけはちゃんと持っておくんだよ?約束だよ?」
指切りげんまん、と小指を差し出してきた。
「うん!やくそく!!」.......ーー
ー天界歴1080年9月28日ー
はっと目を覚ますと窓から朝日が差し込んでいた。
今のは、夢、か。おねえちゃん、か。名前も忘れてしまった。
親に聞くこともできたが聞く気が起きなかった。知りたくもなかった。
だって私に嘘をついて戦場に行き、遺体が発見されることはなかったのだ。
それはもう自業自得だ。バカだ。何をやってるんだ。
赤紙が配布されたわけでもないのに自ら戦場に赴き死ぬなんて。
まあ考えても無駄だ。
制服に着替えて食堂に向かう。
そこには既に朝食を待っている女の子が一人いた。
「あれ?私が一番だと思ったのに」
そう投げかけると鼈甲色の髪の少女は振り向き
「私が早いんじゃなくて、あなた達が遅いんじゃない?」
「ウッ」
痛いとこ突かれた、このクソガキ....とも思ったが明らかに年下を殴るわけにもいかず我慢した。
今の会話で彼女がここにいる理由をなんとなく察した、っていうところか。
制服もシワ一つない、アイロンが欠けられてる感じがする。
おそらく彼女の’’欠けているもの’’は容赦、といったところか。いわゆる自己中。
そんなことを考えててもしょうがないのでとりあえず名前だけは尋ねる。
「あなた、名前は?」
「私に容易く名前を聞こうって言うの?随分と偉そうね。」
またしても突かれた。ツンツンかよ、、
「私の名前は霧雨、あなたの名前を教えてほしい。」
「ふん、上出来よ。私の名前は雷光ことイメル。以後お見知り置きを。」
そんなこんなでいつの間にか10人揃ったので朝食を始めることにした。
話題もなくもそもそと食べるのもあれなのでお互い自己紹介だけ済ませた。
ちなみに昨日統括長様に騎士礼をしていなかった少女は澄晴ーチョウセイーというらしい。
全員が朝食を食べ終わったタイミングで今回の試験の監督を名乗る人が食堂に入ってきた。
「お前たちにはまず最初の1ヶ月間自分だけで鍛錬をしてもらう。誰かに頼るのはだめだ。」
もちろんそれを聞いてみんなはざわざわしだした
「師匠はつけないんですか?」誰かが質問した。
「師匠はなしだ。1ヶ月後はお前たちの実力を図るために行う試験だ。結果次第では特例を認める。」
さらに話を聞くと1ヶ月後の試験は10人でトーナメント方式を取って対戦を行うらしい。
それぞれの訓練場は人数分用意してあるらしいって言うことで早速キリサメは天泣の剣を腰に収めそこへ向
かった。
訓練場は今まで自分が使っていたものよりもずっと充実しており対人戦を意識したのであろうマネキンもお
いてある。
指を慣らすためまずは魔法の練習からしてみる。
この世界の魔法は通常魔法と特異魔法がある。
通常魔法は呪文というものがなく想像力を用いて物体を動かしたり一時的な物体を作り上げたりだ。
キリサメを迎えに来た少女たちが使ったのも通常魔法だろう。
もちろん、物体を複雑に動かしたり、より大きな物体を作る程、強い想像力も必要になるし精神的な疲労も
倍増する。
一方、特異魔法は魔法を発動させるのにも呪文が必要になる上、どんな種類の魔法を使えるかは発動者本人
が使ってみるまでわからない。
親が雷属性を使っていたとしても子は必ずしも雷ではなく水や炎を使う場合もある。
それゆえまだ研究でもわかってないことが多い。
そしてキリサメが使っている特異魔法は水属性だ。
まずは簡単な水の刃を作って飛ばす魔法からやってみる。
「シエル・オー・ラム!」
手のひらに薄青透明の小さなナイフが現れる。キリサメはそれをマネキンのこめかみを狙って投げる。
パシュッという音とともにマネキンの額にはきれいな平行四辺形上の穴が空き、ナイフはパリ...という音を
たてて砕け散った。
とまあこんなふうに魔法の特訓は終わらせ、次は剣の訓練となる。
大事なのは心、そう意識してても難しい。
天泣の剣を抜き正面に構える。
キリサメが得意なのは突き技だ。これは師匠の教えから譲ったものだ。
突き技の中でもトップクラスに難しいのがV字7連突き。突き技とは言ってもレイピアでもなく形は普通の
西洋剣なのでどうしても重量感が増し速度が落ちてしまう。
さらに剣をV字に切り返すのにも技量が必要なのだ。
しかしキリサメの師匠は剣と魔法を組み合わせることでこれをやってのけるのだ。
具体的には剣を4連突きをして人間で言うみぞおち辺りに剣が突き刺さったとき、通常魔法で剣の下にクッ
ションをイメージして想像し、一瞬で剣線を折り返すという高等技術だ。
これをなんども練習しているがなかなかうまくクッションが作れない、というより剣を突くのに精一杯で想
像力に手が回らないのだ。
最近では想像力も鍛え同時に行うことができるようになるが、そのクッションをイメージするというのが難
しくどうしても固形状の物質になってしまい剣の跳ね返りが強くなりすぎる。
そんなこんなで練習していると背後からガサッと物音が聞こえた。
「誰だ!?」反射的に剣先を物音が聞こえた方向に向ける。
「す、すみません、、、少し気になっちゃって、、、?」
そこにいたのはクリーム色の髪をした少女だった。
彼女も試験者だったはずだ。確か名前は、、、
風花ーカザハナーだったはず。
そして言われたのは
「あなた、 なの?」
主人公以外のキャラも登場させていきますっ