表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

江島大橋

 小泉八雲旧居は、松江城を取り囲むお堀に面していました。お堀の外縁には歩道が整備され松の木が植えられています。強い西日に照らされたことで、松は陰影を深くしていました。ところで、松江市から江島大橋に行くためには元の道を戻るわけですが、僕には市街地の土地勘がありません。グーグルマップを立ち上げてルート検索を行いました。すると、元来た道ではなく別のルートを勧められました。


 江島大橋は、中海に浮かぶ江島と鳥取県の境港を結ぶ橋になります。中海にはもう一つ島があり、それが中村元記念館があった大根島でした。二つの島は、湖面に浮かぶ堤防道路――県道338号線で数珠つなぎになっているのですが、コの字にカーブしながら中海の湖岸の東と湖岸の北を繋いでいます。僕が大根島に訪れた時は湖岸東から侵入したのですが、グーグルの候補は湖岸北からのルートでした。同じ道よりも、新しい道を走りたい。素直に従うことにします。


 出雲や松江市の北部には、東西65kmに渡る島根半島が横たわっていました。標高536mの鼻高山を筆頭にして300mクラスの山々が稜線を描いています。この島根半島と本州に挟まれるようにして、出雲平野や宍道湖、それに中海があり、それら南側を主要道である国道9号線が東西に走っています。島根半島の山麓には、国道9号線と並行するようにして国道431号線が東西に走っており、この二つの国道が出雲における動脈になっていました。


 松江市を後にした僕は、この国道431号線を走ります。整備された非常に走りやすい道でした。車の往来も少なくスイスイと走る。しばらく走ると、中海が見えてきました。その向こうに大根島が見えます。大根島は火山島ではありますがとても平べったい。標高42mの犬塚山を頂点にした、まるで蓮の葉っぱの様な島でした。


 国道431号線から県道338号線にアクセスします。車の交通量がぐっと減り、僕だけになりました。以前にもご紹介しましたが、県道338号線は堤防道路になります。湖面の上を道が伸びていく様子は、不思議な構図でした。水平線が見えるほど広くはありませんが、それでも前方には視界を遮るような山や建造物がありません。あるのは風に吹かれて波打つ湖面と、白い雲がのどかに浮かぶ青い空だけでした。360度視界良好、音のない世界の中で、僕のスーパーカブだけがエンジンをガタガタ鳴らしながら走っていくのです。印象派の風景画の中に入り込み、僕だけが存在しているような不思議な感覚でした。スーパーカブを停めて、写真を撮りましたが、この時の空気感は写真では伝えきれない。手を下ろして、ただ、空を見上げました。


 堤防道路が終わり、江島にやってきました。いよいよ江島大橋を走ることが出来ます。江島の北部は、それまでの自然豊かな風景と打って変わって倉庫や工場が集積していました。そうした屋根の低い倉庫の先に、江島大橋があります。周辺には、そうした江島大橋を写真に収めようとして何組かのライダーの姿が見えました。僕も、スーパーカブを停めて、スマホを取り出します。江島大橋に向けてシャッターを押しました。


 ――ん?


 ……何か違う。違うというか、ネットで散々見てきたべた踏み坂の写真が撮れないのです。というよりも、僕の目から見る江島大橋は普通の橋でした。べた踏みが必要な坂には、どうしても見えません。どういうことでしょうか?


 帰宅してからネットで調べたのですが、江島大橋をべた踏み坂に見立てるためには条件がありました。まず、江島から大根島に移動します。江島大橋の西端を真っすぐに伸ばしていくと、大根島の北端にぶつかるのですが、この位置から望遠レンズを使って江島大橋を撮影すると、あのべた踏み坂の写真が撮れるらしい。つまり、あのべた踏み坂の写真は意図して作られたもので、実際はそれほどの坂ではありませんでした。スーパーカブのギアを1速に落としてもなお、登るのに苦労する江島大橋を、僕はイメージしていました。いや、イメージさせられていました。そうした体験を期待していただけに、ちょっとゲンナリ。


 気を取り直してスーパーカブを走らせます。江島大橋を渡り切った僕は、とうとう鳥取県にやってきました。少し未練を感じつつスーパーカブを停めます。振り返り、江島大橋を見つめました。江島大橋の上で、雲が斑に浮かんでいます。夕日に照らされて幻想的な色合いになっていました。それこそ抽象画の世界です。スマホを取り出して、パチリ。良い絵が撮れました。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ