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二十八:―二〇〇二年六月七日 三時五五分―

 慌てて駆け戻った僕達だが、予想に反して職員室は無人だった。眠る二人の姿は、どこにも無い。ただ職員室の床に敷いた布団だけが残されていた。


「やっぱり、二人ともぐるだったとか?」

「まだ決めつけんじゃねぇ」


 池中さんの声を、堀さんが叱り飛ばす。


「二人で起きてどこかに出掛けたか、あるいはこの部屋に居られない状況になったか……どう見るべきでしょうかね」

「単に二人でトイレ……なんて、そんなことは無いか」


 そうだったらどんなに良いことか。いや、もし二人が普通にトイレから帰ってきたとして、僕達はどんな顔で出迎えたら良いのだろう。三谷先生はもう殺されていました、今は二人のうちどちらか、あるいは両方が犯人だと思っています~だなんて、言えるはずも無い。かと言って、三谷先生の死を黙って居ても良いものか。何とも対応に悩むところだ。

 犯人には、僕達が三谷先生の死に気付いたことは知られたくは無い。だが、どちらが犯人かが分からなければ、情報の共有も出来ないのだ。


「どうする、探しに行くか?」

「ええぇ、ここでじっとして居ようよ。もし襲ってきたとしても、こっちは男三人なんだし、どうにかなるって」


 探しに行くべきかと提案する堀さんに対し、池中さんはすっかり腰が引けている。一度目を合わせた後、二人の視線は僕に注がれた。

 もし犯人が一人ならば、残る一人は今危険に晒されているかもしれない。それを放っておいて良いものか――堀さんの二人を捜した方が良いと言う主張は、良く分かる。

 かと言って、相手は人の首を切り落とすような殺人犯だ。僕達だって、自分の身が可愛い。二人が共犯の可能性が無いとは言えず、その状況で危険を推して助けに行くよりも、自分達の身の安全を優先するべきでは無いか――消極的では有るが、池中さんの考えだって、間違いとは言えないのだ。


 正直、僕に決断を委ねられても困る。いくら相手は女性とはいえ、これまでに人を二人も殺した殺人鬼だ。二人の遺体の状況を考えたら、間違い無く刃物を所持していることだろう。もういっそ、扉を両方塞いでしまうのが一番良いのでは……なんてあれこれ考えていたら。


「きゃああぁぁぁ!」


 遠くから、甲高い悲鳴が微かに聞こえてきた。


「今のは……」

「舞子さんじゃないですか?」

「あわわわわわ」


 堀さんと、思わず顔を見合わせる。池中さんは僕達の間に立って、右往左往しているばかりだ。


「ひ、悲鳴が……もう、殺されちゃったんじゃ……」

「そんなこと言ってる場合じゃないですって!」

「くそっっ」


 舌打ちして職員室を出て行こうとする堀さんを、僕は慌てて制止した。


「そのままじゃ危ないですよ。せめて、これだけでも」


 僕は先ほど皆で用意した柄の長い箒を、堀さんと池中さんに一本ずつ手渡した。最後の一本は、自分用だ。もうこうなっては、腕に覚えが無いなどと言ってはいられない。


「よし。行くか」


 箒を受け取った堀さんは力強く箒を握りしめて、職員室の扉を開けて、声のした方へと向かった。僕も堀さんの後を追い、職員室を出る。


「ま、待ってよ~」


 僕の後ろからは、情けない声を上げる池中さんが、のそりのそりと付いてきていた。

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