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幕間:安藤瑞穂の調査ノート一 ―一九八七年四月某日―

 七不思議を七つ知ると死んでしまうなんて俗説が存在するが、それが本当なら、全国の学校は死亡者だらけになっているはずだ。なぜなら、噂話とは常に塗り替えられていくものであり、作り替えられていくものなのだ。その時その時で一番多く話題に取り上げられた物が、七不思議の一つになる。噂好きな生徒が七つの怪談を作り上げたら、それだけでもう七不思議の完成だ。

 などと前置きはしたが、私自身は七不思議を否定する気は微塵も無い。それぞれの学校に長く言い伝えられた怪談に、とても興味をそそられる。我が常夜野高校は生徒数こそ少ないが、歴史と伝統のある学校だ。古い校舎は如何にも幽霊騒動が囁かれそうな様相で、さぞ怪談も生まれやすいのだろう。


 学校の怪談の定番と言えば、パッと思いつくのはトイレ、理科室、音楽室だろうか。トイレの花子さん、理科室の人体模型、音楽室に飾られた作曲家の肖像。どの学校にもありそうな、定番のネタだ。

 私は七不思議調査の取っ掛かりとして、まずはこの学校に一番長く勤めている、地理の岩島先生から話を聞くことにした。今年度の末に定年を迎える、我が校一番のベテラン。授業が眠くなることで評判の白髪のおじいちゃん先生は、私が声をかけると嬉しそうに話をしてくれた。


「ほう、ほう、学校の怪談ねぇ。それはまた面白そうな新聞になりそうだねぇ」

「はい。先生も是非、協力をお願いします!」

「良いとも良いとも。しかし、怪談か。何かあったかな……ああ、そうだ。蟇蛙の話があったか」

「蟇蛙ですか?」

「そうそう。元々は解剖で使われていた蟇蛙だが、生徒達が悪戯をして、掃除の時間に踏み殺してしまったとかでなぁ。それ以来、出るそうだ」

「そこ、詳しく教えてください!」

「私もそこまで詳しくは知らないんだが……掃除の時間にサボるような不真面目な生徒が居ると、蟇蛙が亡霊となって現れて、生徒を轢き殺してしまうそうだ」

「轢き殺す……って、踏み殺すってことですか?」

「ああ。おそらく、蟇蛙と轢き殺すを掛けているんだろうなぁ」

「掛けるって、そんな落語じゃないんですから」

「はっはっは、噂なんてそんなもんだよ」


 なるほど、最初の情報は学校の怪談としては定番とも言える、理科室の怪談の類似型だ。人体模型では無く、解剖に使われていた蛙の怨霊。蛙に踏み潰されると言われても、あまり怖さは感じないなぁ。


「うちの学校でも、解剖の授業なんてやっていたんですね」

「いや、少なくとも私が赴任してきてからは、一度も聞いたことは無いよ」

「え? じゃ、この怪談は嘘ってことですか?」

「あながちそうとも言えない。私がこの学校に来たのは、二十年前のことだからねぇ。今の話は、当時この学校に勤めていた年配の先生から聞いたのだよ」

「それよりも昔の話ということですか」

「今となっては、真実は闇の中だな」


 岩島先生はさらに笑いながら、ひょっとしたら不真面目な生徒を戒める為に、昔の先生がこんな怪談を作って生徒達に聞かせていたのかもしれないねって教えてくれた。なるほど、教師にとって学校の怪談は、生徒を誘導する為の材料にも成り得るんだ。


 しかし、こんな話、どうやって裏付けを取ろう。適当にそれっぽく脚色して記事に纏めても良いのだけれど、それよりも、もっとリアリティを追求したい。

 今度生物の先生にお願いして、過去に使っていた教科書や資料を見せてもらおうかな。その中に解剖に関する記載があれば、この話の信憑性が増すはず。よし、確かめてみよう。

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