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十二:池中順之介の証言 ―二〇〇二年六月六日 二二時三〇分―

「ぼ、僕は別に話すようなこと、何も無いんだけど……ええぇ、そんな、とにかく知っていることを話せって言われてもさぁ。ああ、確かに上田君と荒木君とは同じクラスだったよ。でも、僕みたいなのがあの二人と対等な付き合いが出来ると思っているのかい?

 別に、いじめられてはいないよ。言うことを聞いていれば、上機嫌だったし。それをいじめられているって言うんだって? 仕方ないじゃないか。怖いんだもの。君だって、分かるだろう。あんなのに逆らえる訳が無いんだ。


 さっき、映画を撮るのかって聞かれたよね。本当は、撮りたかったんだ。学生の間に、映研の皆でさ。でも、せっかく高いカメラまで買ってもらったのに、あいつらったらそれを面白がって、貸せって言うんだよ。当然、嫌だった。でも、断ったら殴られそうな空気だったから……。

 僕とあいつらの関係なんて、せいぜいそれくらいだよ。ああ、カメラはちゃんと戻ってきたよ。あいつらが死んだ後に、だけど。校長先生が持ってきてくれたんだ。渡された時に、もの凄く睨まれたよ。いつもニコニコしているところしか見たことが無かったから、驚いたのなんの。余計なことしやがってって、凄い剣幕でね。余計なことも何も、僕はただの被害者だよ? 大事なカメラを奪われただけなのに、なんでそこまで言われなきゃいけないんだ。もう、意味が分からなくてさぁ。ろくでもない事件ばかり続いていたし、こんな学校を辞めてやろうかとも思ったけど、もう三年だったしさ。親にも反対されて、とにかく残りの授業は出席日数が足りるギリギリだけ出席してやり過ごしたんだ。


 その後? いやいや、流石に働いているって。プータローでも良かったんだけどね。親の手前、気まずくてさ。

 僕? レンタルビデオ店で働いているよ。似合うでしょ。これでも店のバイトの中じゃ、一番の古株なんだ。映画にだって、一番詳しいよ。どんな映画が見たいか、相談されたらすぐに紹介出来るもんね。

 今はもう、ビデオで映画を借りる人も減ってきているんだけど……僕は、好きなんだ。あのビデオ屋の空気。何より、映画のパッケージに囲まれて仕事が出来るのって、最高じゃないか。これほどの天職はそう無いと思っているよ。


 本当はさぁ、ビデオ屋の店員じゃなくて、映画監督とか、そっちの仕事に就きたいと思っていたんだけどね。でも、無理だった。ええ? だって、高校だって出席日数ギリギリで卒業したって言っただろう。大学も出ていない、コネも無い僕が、映画監督になんてなれる訳が無い。

 夢は夢のままさ。夢を叶える人間なんて、恵まれたほんの一握りだけなんだ。別に寂しくは無いよ。人生なんてそんな物ってだけ。仕方ないじゃないか」

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