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八:常夜野高校 ―二〇〇二年六月六日 二一時十分―

 堀さんの話は壮絶だった。事件のあらましは知っていたとは言え、関係者から直接話を聞くのでは、やはり違う。懐中電灯だけが照らし出す、暗い夜の廃校という舞台もまた、恐怖に拍車を掛けていた。ここは七不思議の舞台、常夜野高校だ。彼が今話した恐怖は、全てこの学校での出来事に端を発している。


「聞きしに勝るとは、この事ですね……」

「まぁな。しかも、俺でさえまだそこまで詳しい訳じゃねぇんだ」


 事件に詳しい、当事者に近い立場の人からは、これ以上に生々しい話を聞ける可能性がある訳だ。楽しみでもあり、恐ろしくもある。




 僕達が話をしている最中、池中さんはデジタルカメラを持って職員室の中を撮影したり、時には廊下に出て写真を撮ったりしていた。怖い話よりも、最初っから興味はデジタルカメラに向いていた。僕達の話が一段落した頃、ガラガラと扉が開いて、デジタルカメラを首に掛けた池中さんが入ってくる。


「あ、話は終わったぁ?」

「はい、一通りは。良ければ池中さんからも、話を聞かせていただけませんか?」

「そんなこと言われても、僕は全然詳しくは無――」


 池中さんの声に被るようにして、窓の外に稲光が走った。少し遅れて、雷鳴が轟く。


「ひやああぁぁぁ!」


 雷に驚き、池中さんは悲鳴を上げて蹲った。その様子を見て、堀さんが小馬鹿にしたように笑う。


「ったく、情けねぇなぁ。なんだよその声」

「し、仕方ないじゃないか。こんな所で、こんな時に、雷まで鳴るなんて」

「雨、ますます酷くなってきたみたいですね」


 雨が叩き付ける窓から、外を眺める。街灯も無く、月も星も出ていない夜の村は、ただひたすらに暗い。いや、雨のせいで濃灰色にも見える。

 今頃池中さんが呼んだタクシーの運転手は、土砂崩れに気付いて、救助を要請してくれただろうか。この雨で、土砂崩れの現場はさらに悪化していないだろうか。あれこれと思考は巡るものの、現実に確かめる術は無い。この職員室に入った時に既に試したが、職員室に置かれた固定電話は受話器を持ち上げてもどこにも繋がらず、うんともすんとも言わなかった。


「僕、お腹が痛くなってきちゃった。トイレに行ってくるね」


 幾分青い顔で、池中さんが呟く。


「トイレットペーパー、ちゃんと有るかなぁ」

「さっき、舞子さんがトイレに行くと言っていましたし。大丈夫なんじゃないですか?」

「もし無かったら、倉庫にトイレットペーパーも有ったはずだぜ」

「トイレの中で気付いたら、もう遅いじゃないか」

「先に確かめりゃいいだろう」

「うぅ、お腹が痛いのに……」


 ぼやくようにして、池中さんが扉を開けて職員室を出て行く。ったくあいつは情けねぇなぁと笑う堀さんと一緒にソファーに座り直して、ペットボトルの水を口に含んだ、その時だった。


「うわあああぁぁぁあ!」


 雨音を切り裂く、池中さんの悲鳴が聞こえてきたのは。

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