魔族四天王・リッチキング
松明の灯りが近づくにつれ、その集団の姿がはっきりとわかる。
インプと共に、カタカタと不気味に音を鳴らすスケルトンの集団が見える。
そして、その集団を見て、レイヴンは納得する。
「なるほど、スケルトンを従えることが出来る四天王はただ一人」
「それは……?」
アリスは不安の余り、思わずそう質問する。
「お前が聖職者なら、名前くらい知っているだろう。リッチキングだ」
アリスは、その名前を記憶から引っ張り出す。
リッチキング――その名の通り、アンデットでも上位種であるリッチの親玉。リッチは下級種のアンデット、即ち死体をスケルトン・ゴースト・ゾンビといった類のアンデットとして蘇らせ、従えさせることが出来る。そして、それらを束ねているのがリッチキングだ。
スケルトンがカタカタと骨を鳴らしながら、ゆっくりと近づいてくる。
スケルトンの後方には、リッチキングがいる。
リッチキングは、手には指輪、頭には王冠、手には大きな魔宝石を付けた杖、といった、如何にも「王様」といった豪華な装飾品を付けており、骨の馬――言い換えれば、アンデットの馬――であるナイトメアに乗っている。
そして後ろには配下であるスケルトンたちが付き従っている。
多数存在していると思われた松明の灯りも、半分はリッチキングの周囲を飛び回る鬼火である。
そして、村の前に来て、リッチキングは服装を少しだけ正すと、声を上げる。
「村でも軽く襲撃して、新鮮な死体で新しい兵を作ろうと思ったが……先に、魔族が来ているとは……」
リッチキングは顎に手をあて、頭蓋骨でしかない顔に恰も髭があるかのような動きをする。
生前の癖が未だに抜けていないのだ。
レイヴンはリッチキングの前にゆっくりと、そして堂々と近づいていく。
アリスは、その様子を心配そうに見つめる。
「懐かしいな、リッチキング」
「お前は……四天王にして最弱の、クリムゾン・レイヴン」
リッチキングは少し嘲笑めいた調子で、レイヴンに話しかける。
レイヴンはそれを聞いて、愉快そうに返す
「そうだな、私が魔王軍から抜けたということは、貴様が現四天王にして最弱なんじゃないか?」
リッチキングは不愉快そうな表情を浮かべる。
もし骸骨でなければ、眉を顰めるという形容が似合いそうである。
「相変わらず口だけは達者なようだ。貴様は、前の魔王の時からそのように不愉快だったからな」
「『前の魔王』ね……なるほど、魔王が殺されそうだというときに、貴様は魔王城から逃げ隠れていたというわけか。それで、現魔王に寝返ったと。なるほど、さすが王と名乗るだけのことはある。大した采配だな」
アリスは、そのやり取りから、レイヴンとリッチキングがそれほど仲良くないことを察した。
「こんな戯言の応酬はどうでもよい。私が現魔王に命じられているのは、お前を生け捕りにし、魔王の元に差し出すことだ。抵抗はするな」
リッチキングのその言葉に、レイヴンは鼻で笑う。
「抵抗だと?それはこちらのセリフだ、リッチキングよ。貴様のような口だけ達者のスケルトンごときが、私を捕まえられると思うなよ」
「貴様こそ、縛り上げて、二度とそんな口を利けないようにしてやる」
リッチキングはそう言うと、杖を高く掲げる。
するとスケルトンたちは一斉にレイヴンに向かって飛び掛かる。