戦いの後
夜が明け、何処からともなく鶏の声がすると、夜が明ける声がする。
周囲からは小鳥の声が聞こえ、ただ焼け落ちた納屋と、リッチキングとアンデット達が破壊した民家が、残されている。
レイヴンは、激闘の疲れを癒すために、宿屋のベットに横たわり、深い眠りについていた。
リッチキングとの激しい戦いで、魔力も体力も消耗したのだろう。
アリスはふと目が覚めると、レイヴンを起こさないようにと、静かに部屋を出て外に出る。
外は骸骨が散らばり、幾つかの焦げ跡も残っており、その戦いの激しさを物語っている。
アリスは村の教会に向かう。
教会は、何かに守られていたかのように、無傷のまま、そこに佇んでいる。
アリスは、その教会に入り祈りを捧げる。
「……私の祈りに答えて下さり、ありがとうございました。無事、村を守れたのも、貴方様の御業です」
アリスはそう呟く。
「私は……村人を説得することもできませんでした。リッチキングが現れたとき、レイヴンに助けてもらうことしかできませんでした……私はまだまだ非力です」
アリスの目には涙が浮かんでいた。
「私も大聖女になれば、人々を救えるようになれるでしょうか?」
アリスの問いは、ただ空しく教会に響く。
「いえ、私は……人々を救わねばならないのです。そのためにも……」
アリスは決意を新たにし、教会から出ようとする。
すると、外から村人たちの声が聞こえる。
アリスが教会から飛び出すと、村の住民たちがアリスのほうへと振り向く。
「聖女様!ありがとうございます!」
村の住民たちはアリスに感謝の言葉を述べていた。 だが、その表情は複雑だ。
それはやはり平和だったはずの村が魔族四天王に襲われたこと、そしてよりによって、その村を救ったのが同じ魔族であったことに、戸惑いを隠せていない様子だった。
村長はアリスに、何やら神妙な面持ちで話しかける。
「聖女様、この度は村を救って頂き、誠にありがとうございました」
「いえ……そんな……私は何も……」
アリスが口ごもると村長は続ける。
「ただ、一点だけ……あの男は……自分を同じ魔族四天王だと述べてましたが」
村長の、何かを窺うようなその目線にアリスはたじろぐ。
「何か……言いたいことがあるのでしょうか?」
アリスの言葉に村長は、一瞬躊躇する。
意を決したように話し出す。
「聖女様、あの男は魔族です。我々の命を助けてもらったことは事実です。しかしそれでも、あの男が魔族であるという事実は、我々にとって恐怖でしかありません」
「それは……」
アリスの目に再び涙がにじみ始める。
アリスはもう何も言えずにいた。周りの村人もそうだと言わんばかりに頷く。
「それは村人たちの言う通りだ」
その声の方向へ、皆が振り向く。
すると、宿屋から起きだしたレイヴンがそこに立っている。
「レイヴン……!」
レイヴンは落ち着きを払いながら、村人たちに語りかける。
「私はこの腕輪によって、聖女アリスに、 自らの自由を束縛されている。だが、それでもなお、私が魔族であり、人間と対立する存在であることは間違いない」
レイヴンはアリスのほうへと歩いていく。
「現実に、人間と魔族は争っている。そんな中で、魔族がこのような形で現れただけで、皆の心は掻き乱される。それは当然のことだ」
レイヴンはアリスを慰めるようにそう話した
「私はこの村を出ていく。もうここにいても仕方ないだろう」
そんなレイヴンの言葉にアリスは静かに頷く。
「そうですね……私も大聖女になるべく、人々を救う旅を続けなくてはなりません……」
二人は宿屋に向かって歩き出す。
すると、一人の子供が唐突にレイヴンへと走り始める。
「お兄ちゃん!」
子供はレイヴンの脚に抱き着いた。
その子供は、村で遊んだ子供の一人だった。
「お兄ちゃん、また遊ぼうよ!今度はかくれんぼ!」
子供は無邪気にレイヴンに言う。
「そうだな……また今度、この村に来ることがあれば、一緒に遊んでやろう」
そういってレイヴンは子供の頭を優しくなでる。
すると、レイヴンに一つの綺麗に光る石を渡す。
「これあげる!」
そう言って子供は走り去っていく。村を救ってくれたレイヴンへの、子供なりのお礼の印だろう。
レイヴンは静かに「ありがとう」と言い、そして宿屋の中へと入っていく。
その後を、アリスはついていった。