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第89話 家族水入らず?

 兄妹に囲まれて固まるセシリアの手を末っ子である妹のアーチェが握る。ブラウンの瞳をうるうるさせ上目遣いでセシリアを見てくるアーチェをセシリアは信じられないものを見るような目で見る。


「ねえねっ、とても綺麗だね!」


「あ、ありがと……」


 セシリアの手を握ったままぴょんぴょんと跳ねながら、セシリアを褒めるアーチェにお礼を言うセシリアではあるがその表情は浮かない。


「セシリアよ、先ずは家族と会って来るといい。家族水入らずの時間も大切じゃろうからな。余は村長と記念碑の設置の話を進めてくるからゆっくり過ごすといい」


 アイガイオン王が兄妹に囲まれたセシリアを見て優しく微笑みながら声を掛けてくる。


「お気遣いありがとうございます」


 セシリアが頭を下げると王は満足気に頷くがセシリアは内心、王が来なければこんな面倒なことにはなってなかったのにと思ってたりする。


「いこっ! お父さんたちはこっちだよ!」


 アーチェに引っ張られセシリアは村民に頭を下げつつ人混みをかき分け、父と母のもとに連れてこられる。


「お帰りセシリア。ここではなんですから、お家でお話しましょうか。王様もお気遣いくださってますしご厚意に甘えさせていただきましょう」


「そうだな、久しぶりに帰ったんだ。家で話そうか」


 笑顔で迎えてくれる、父と母がやけに優しいのに逆に怖さを感じつつ家の中へと入る。

 中は出て行ったときと変わらず小奇麗ではあるが、生活感あふれた空間が広がっていた。

 玄関を最後に入った三男のフランが閉めたとき、アーチェがセシリアから手を離すと椅子に飛び乗り足をバタバタさせながらセシリアを指さし笑う。


「ぷふふふっ、にいにが聖女さまだってぇ~おかしぃーっ」


「アーチェ、猫被るのばっかり上手くなりやがって」


「きゃははっ! アーチェ、聖女さまに褒められちゃった!」


 お腹を抱えて笑うアーチェを無視して、次男のイランダと三男のフランを見ると哀れみの目でセシリアを見てくる。


「冒険者になるって言ってたけど、やりたかったことってそんな感じ?」


「俺もこれは予想できなかった」


 心配そうに尋ねるイランダと、腕を組み感心したように頷くフランをセシリアは不服そうににらむ。


「こうなったのには深い理由があるんだよ」


「はいはい、せっかくセシリアが帰って来たんだから楽しいお話しましょうよ」


 母であるナディーヌが手を叩いて兄妹を諌めると、父であるエクトルと一緒にテーブルの上にお茶とお菓子を並べていく。それを見て兄妹たちは椅子に座りセシリアも続いて座る。


「セシリア、すっかり都会の子になっちゃて。その座り方の所作とか凄く綺麗じゃないの。お母さんびっくりしちゃった。

 都会ではグワッチを連れて歩くのが流行ってるのかしら? 非常食?」


「うっ、まあ色々と人前に出ることが多くて一応練習とかしてるから……それにこの子は食べるわけじゃなく、戦闘に日常に結構役に立つから」


 なにかと王や貴族など位の高い人たちと話す機会も多いので、作法の練習をしていることは本来は誇るべきなのだろうがなんとなく恥ずかしいセシリアは頬を赤くして下を向く。

 そんなセシリアの椅子の下に隠れ、スカートの端からグランツが覗きセシリアの母を警戒している。


「そうか、そうか。セシリアは努力してるんだなすごいぞ! それに数々の功績は父さんの耳にも届いている。父さん鼻が高い!」


 テンション高く嬉しそうにそう語る父の隣で母が微笑みながら何度も頷いている。


「あのさ、功績を褒めてくれるのは嬉しいんだけどそれよりもっとこう言うべきことない?」


 自分の姿に触れようとしない両親に、痺れを切らしたセシリアの方から尋ねてしまう。


「そのことか……セシリア今まで黙ってたが実はセシリアは女の子だったんだ」


「えっ……うそ……ってそんなわけあるか! 真顔で言うから一瞬そうなのかとか思っちゃったじゃん!」


「セシリア、言葉遣いが悪くなってるわよ」


「ああ、ごめんなさい! 私としたことが……ってそうじゃなくて!」


 セシリアは真顔で意味の分からないことを言う父に怒り、母にその言葉遣いを注意されハッとした顔で思わず口を押さえ謝ってしまう。

 そんなセシリアを見てアーチェが足をバタバタさせ笑っている。


「セシリアの身に何があってそうなったのかはお母さんは分からないけど、もう後戻りできないのは分かるわよ」


「村にセシリアの記念碑を作るって話もほぼ決まってるし、里帰りするだけで一国の王がついてくるわけだろう。鈍感な父さんだってもうセシリアが後に引けない状況にいることは分かるさ」


「うっ……」


 理解のある両親の言葉に何も言えないセシリアは、言葉に詰まってしまう。


「それにな、村中にもセシリアは実は女の子だったんだって言ってあるし、安心してくれ」


「そうそう、そしたら村のみんな、やっぱりぃ~って納得してくれてね。みんなセシリアを女の子だと思っているわ」


 無駄に手回しの良さに驚き助けを求めるようにイランダとフランを見ると、目を逸らされてしまう。


「僕も仕方ないかなと。姉さんは僕とフランと違ってお母さん似で美人だしさ。うん、セシリア姉さん頑張って!」


「俺も生意気な妹より優しい姉ちゃんの方がいいし。ってことでセシリア姉ちゃんよろしく」


 なんとも理解力の高い弟たちにセシリアは感動すら覚えてしまう。一応妹を見ると、フランを蹴っていたアーチェが目をくりくりと可愛らしく輝かせセシリアを見つめてくる。


「アーチェはねぇ~。セシリアねえねのこと応援してるよ! 将来王都に出て聖女様の妹としてちやほやされるんだもんねぇ!」


 ませた妹の将来設計にセシリアは肩をガックリ落としてしまう。


「ってなわけで、ミルワード家は聖女セシリアを全面的にバックアップするから安心して」


 こっちから事情を話す前に理解してくれた上に手回しまでしてくれる家族に素直に喜ぶべきなのか、家族の笑顔を前にしてどういう顔をしていいか分からず困惑してしまう。



 ***



 ひとしきり今どんな生活をしているのかを話すセシリアを家族は興味深く聞いている。特に末っ子であるアーチェは興味があるらしく、宿屋の住み心地や城や御屋敷の様子、そこでの生活を聞いて目を輝かせていた。


「──とまあこんな感じかな」


「なんだか想像できない世界ね。冒険者になったって言うよりも貴族や王族になったって言った方がしっくりくるわね」


「うぅ……一応冒険者なんだって思ってるから」


 母に言われセシリアは項垂れてしまう。


「でも冒険者としての実績は確かにあるんだろう? この間なんか五大冒険者を率いて魔族をやっつけたって話じゃないか」


「う、うん。まあそうだと言えばそうなんだけど……」


「五大冒険者といえばセシリアあなた、全員から求婚されてるって噂じゃないの! そう言えばお隣のメンデール王国の王子様からも求婚されてるって聞いたわよ。他にも貴族や王族からも多数結婚して欲しいって話本当なの?」


 父との会話に割って入ってきた母の問いにセシリアは胸を押さえ苦しむ。


「うぐぅっ!! そ、それは……本当」


「まあまあ、でどうするの? どなたの求婚を受けるのかしら? 」


「セシリアねえね、すごい! すごい!」


 自分の置かれている状況を再認識させられ落ち込むセシリアを余所に盛り上がる女性陣。その隣ではセシリアの結婚話に目頭を押さえ悲しむ父の背中を擦るイランダに、ハンカチを手渡すフランがいる。


 なんて順応性の高い家族だとセシリアは思いながら呆れて見ていると、家のドアがノックされる。


 対応した母が連れて来たのはミルコの母であるメイスンである。


「家族水入らずのとこお邪魔して悪いわね。あらセシリアちゃん綺麗になって」


「あ、ありがとうございます」


 メイスンに褒められ一応お礼を言うセシリアだが、それよりも気になるのは息子であるミルコが記憶を失っていることである。

 一緒に冒険に出たセシリアとしては心苦しいところなのである。


「うちのミルコがものすごーく立派になって帰ってきてね。五大冒険者四位になったって言うじゃない。私すごくびっくりしちゃって」


 そう言ってメイスンはセシリアの手を取る。


「セシリアちゃん、うちの子が怪我して入院の費用を出してくれただけでなく、寄り添ってくれたって言うじゃない。も~感謝しても感謝しきれないわ!」


「い、いえ。同郷の友人ですし怪我したのは私にも非がありますから」


「ううん、セシリアちゃんは悪くないわ。うちの子がセシリアちゃんをそそのかして冒険者に誘ったんでしょ。まったくもうこんな可愛い子を危険が目に合わせてから、おばさん怒ってたから!」


「あ、いえ……」


 ミルコにそそのかされて冒険者になったわけではないのだけどと否定する間も与えてくれずメイスンは、セシリアの手を力強く握りしめ段々と近付いてくる。その圧にたじたじになるセシリアの手を一層強く握りしめたメイスンがセシリアに顔を近付ける。


「セシリアちゃん! ぜひうちにお嫁にきてくれないかしら?」


「いっ!? えっと……その記憶がなくなってることおばさんは気になさってない?」


 いきなりミルコとの結婚話を始めるメイスンに対し、話を逸らそうと試みるがメイスンは首を振る。


「りっぱになって帰って来たからいいわ。それにさっき私と話してたらなんとなくこの村のこと覚えてるって言うし、どこかで思い出すでしょ。それよりもどう? おばさんセシリアちゃんみないな娘なら大歓迎よ。ほら、お父さんたちも近いし安心でしょ」


「あ、いえ……」


「母さん、セシリア様が困ってるから」


 セシリアがメイスンに圧を掛けられ逃げれずに困っていると、いつの間にか入ってきたミルコが立っていて助け舟を出してくれる。

 村を出たときと全く違うミルコの筋肉質な姿にセシリアの家族は驚き目を丸くしている。


「あら、つい熱くなっちゃってごめんなさいね。あんた家で日記を読んでたんじゃないの?」


「うん、一通り読み終えたから母さんを探してたらセシリア様の家に行ったって言うから来たんだ」


「セシリアちゃんに会いたくてつい来ちゃったのよ。それよりなにか思いだせたの?」


 メイスンが尋ねるとミルコは嬉しそうに頷いて手に持っていた日記を広げる。


「どうやら俺は昔からセシリア様のことが好きだったみたいだ」


 そう言って笑顔でミルコが広げる日記帳に書いてある文字を指さす。それを目で読むセシリアの顔が段々と青くなっていく。


『セシリと一緒にいるとなんだかドキドキする。この間雨宿りをしたときに駆け込んだ岩陰で身を寄せ合ったとき、凄くいい匂いがして──』


「ひっ……。も、もうやだぁっ~!!」


 セシリアは叫んで家を飛び出してしまう。そんなセシリアをにこやかに見る大人たちだが胸の内は全然違ったりする。


(あらあら、セシリアったら叫び声まで可愛くなっちゃって)


(ミルコくんかぁ~。セシリアがお嫁に行っちゃうのはやだなぁ)


(セシリアちゃん恥ずかしがっちゃって。何としてもうちにお嫁に来てもらわなきゃ)


 そして、セシリアの境遇に同情の視線を送るイランダとフランの隣でニンマリと笑うアーチェの姿がある。


(セシリアねえね、モテモテじゃないの。ねえねがどこへ嫁ぐかでアーチェの将来もある程度決めれそうね)


 うぷぷと笑いをこらえきれない九才児の未来は明るい。

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