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第87話 会議は北から南へ

 アイガイオン王国の城にある会議室では深刻な表情をしたアイガイオン王を中心に、メネデール王に加え北側に位置する国、キルレスとシズェアの王がそれぞれ座っている。

 それに加えセラフィア教会からゲンナディーが出席し行われる会議の議題は魔王の復活とグラシアールが占拠されたことについてである。

 今後の国の動きを話し合う大切な会議に聖女セシリアはアイガイオン王隣の席に座って参加している。


(なんで私まで……)


 重々しい雰囲気の中にいることが耐えられないセシリアは、じっと座りただ時間が過ぎるのを待っていた。


 各国の王に囲まれても涼し気な顔で、凛として座って話を静かに聞くその姿に聖女セシリアをよく知る者はさすがだと感心し、初めて会う者は噂に(たが)わない少女であると感銘を受ける。


 等の本人は難しい話に眠らないように我慢して目を潤ませているだけだったりするが、王や付き人が話す内容は膝に立て掛けてある聖剣シャルルが聞いてくれているので問題はない。


 聖剣シャルルはこう言った話も好むようで、ふむふむ言いながら興味深そうに話を聞いている。


「グラシアールが魔王を名乗る者に制圧されたと、その報告に間違いはありません」


「ではなぜ今日まで情報が遅れた?」


「その件に関しましては、まず現在のグラシアールがほぼ以前と変わらぬ状態で国交も再開していることをお伝えします」


「何だと? 魔王によって制圧されたのではないか? まさか既に民は消され魔王軍の住人と国交再開というオチではなかろうな?」


 キルレスの王が報告するシズェアの官僚に対して、報告内容が理解できないと言った風に皮肉めいた尋ね方をする。


「いいえ魔族ではなく元々住んでいた人間です。魔王がグラシアールを制圧したときに起きた被害といたしましては、街中のガラス性ものが割れたこと。それによって怪我した者や魔王討伐に向かった兵の中で打撲、切創等の怪我のみです。死者、重症者は一人も出ておりません」


「いいやちょっと待て! その規模の被害でグラシアールはなぜ国を明け渡したんだ?」


 この内容にはセシリアも興味を持って耳を傾ける。


「グラシアールは魔族を大陸から追い出した最後の決戦の地であることから、魔族が大陸へ戻らないように監視する役目があります。それゆえ、対魔族武器を所持する国であります。

 その所有する武器が通じず、全て破壊されたとのことです。それもたった一人の魔王にです」


 報告する官僚の男の言葉にみなが表情を強張らせ、緊張から唾を飲み込む。


「魔王との戦闘に勝機を見出せないと判断したベルトラン首相は対話を試み、民の命を保証してもらう代わりに国を明け渡したとのことです」


「先ほど国交は再開したと言っておったな。つまりは国の出入りは自由と言うわけであろう? 国民の多くは他国へ逃げておらんのか?」


 アイガイオン王があごひげを擦りながら尋ねると、他の王たちもそうだと同調し頷く。


「魔王が出した大きな条件は国に魔族を住まわせること、国の管理はこれまで通りベルトラン首相にまかせることの二点。

 それに魔王は魔族の故郷を探し求めていると、このことからおそらくグラシアールから進軍すると判断したベルトラント首相は、今慌てて逃げるよりも留まった方がより安全と民に進言したようです」


「ふん、つまりはあれか? 自分の我が身可愛さに魔王に尻尾振って魔王が他国に進軍するのを待ってるってことか?」


 キルレスの王が呆れたように言うと、官僚の男は頷き肯定する。それを見てキルレスの王は鼻で笑って呆れかえる。


「まあ、キレス王よ、そこまでグラシアールを悪く言うな。誰一人死者を出さず自らは傷の一つも負わない相手だ。それだけでとんでもない相手だと言うことが分かる。国を守るための手段としては理解できる」


 シズェアの王がキレスの王をたしなめると、アイガイオン王とゲンナディーに目をやる。


「この会議に置いて一番大切なのは今後どうするのか? そこでしょう。つまり今唯一魔族に対抗できる聖女セシリアを魔王討伐に向かわせることが最善の策であると私は考えますが、アイガイオン王も同じお考えではないのですか? セラフィア教教祖であられるゲンナディー殿も目の前で聖女セシリアの力を拝見した身。身に染みて感じておられるのでは?」


 シズェアの王の言葉にアイガイオン王がゲンナディーを見て発言を促すと、ゲンナディーは頭を下げ口を開く。


「この中でワシほど聖女セシリア様の力を身を持って味わった方はおりますまい。シズェア王のおっしゃる通り身に染みて味わった聖女セシリア様のお力に生まれ変わったワシだからこそ、魔王に対抗できるのは聖女セシリア様しかいないと断言できます」


 もともと卑屈で嫌味っぽい喋り方をして、事実を指摘すると激怒する男だったゲンナディーの素直な物言いに、元の性格を知っているシズェアの王はあまりの変わりように目を丸くして驚く。


「聖女セシリアに魔王討伐を願う他ないのが現状だ。そのためには魔王が進軍する前に北へと向かってもらう必要があるわけだが、長き旅は聖女セシリアに大きな負担をかける。そこでだ、各国聖女セシリアの旅路を全力で援助してほしいのだ」


 アイガイオン王の言葉にシズェアの王が頷く。


「もちろん私の国は聖女セシリアの訪国を歓迎いたします」


 シズェアの王に対しキルレスの王がアイガイオン王の方へ視線をやる。


「それは俺のところも同じだが。いくらアイガイオン王の言葉と言えども全ての国が従うかね。それに、魔王はどう動く? 北を目指せばいいってわけでもないと思うがな」


 キルレスの王の懸念も納得できると、アイガイオン王が椅子の背もたれに寄りかかりあごひげを撫で始める。


 カタカタッ


 思考するため一瞬静かになる会議室に、聖剣シャルルが刀身を揺らし鞘を鳴らす音が響く。


 当然音の主の傍にいるセシリアにみなが注目する。セシリアは小さくため息をつき足に立て掛けていた聖剣シャルルを手に持ち抱きかかえる。

 セシリアに抱かれた聖剣シャルルは、紫の光を神々しく放ち始める。


「おそらくですが、魔王が目指しているのはかつて魔族の故郷があった場所。フォルータと呼ばれる場所」


 聖剣シャルルをぎゅっと抱きしめ静かに目をつぶったセシリアが静かに声を発する。


「地図から消され、全ての人の記憶からも忘れ去られた地」


 紫の光に包まれ、淡々と言葉を紡ぐ神々しいセシリアの美しい姿にみなが息を吞んで見守るなか、セシリアはさらに言葉を紡いでいく。


「かつて存在した遊戯人(ゆうぎびと)の残した文字を読み解くこと、フォルータへと繋がる道を開く唯一の手段となるでしょう」


 そこで言葉を切るとセシリアはゆっくり目を開ける。まぶたが開くと同時に露わになっている宝石のように輝く紫の瞳の美しさと、周囲の視線が自分に集まっているのに気づき恥ずかしそうに笑みを見せる。その艶やかさと可愛らしさの混ざった表情にみなが見惚れてしまい言葉を失う。


「アイガイオン王、ニャオトです。彼の力が必要となるのです」


「おっ、おおう。そうか、そうであるな。遊戯人(ゆうぎびと)の力を借り文字を読み解いていけば魔王の向かう先も分かると言うわけであるな」


 セシリアに声を掛けられ慌てて返事をするアイガイオン王は、大きく咳ばらいをして会議室にいるみなを見渡す。


「各国にある、遊戯人(ゆうぎ)の残した言葉を見つけ解読しつつ北へと向かう。全ての国が聖女セシリアを支援し魔王討伐を成しえようではないか! となれば色々と忙しくなるのお」


 ソワソワし始めるアイガイオン王を見て、自分が魔王討伐へ向かうことはもう決定してるんだと、今さら行きたくないんですけどなんて言えない状況のなかセシリアがそっと手を上げる。


「あ、あのぉ。北へ進軍する前に一度実家へ帰りたいのですが時間を頂けないでしょうか?」


 申し訳なさそうに尋ねるセシリアをじっと見ていた王が、段々と目を丸くしていくと机をバンと叩く。


 怒ってる!? そう思ったセシリアがビクッと身を縮めてしまう。


「そうじゃ! 聖女セシリア生誕の地への訪問。王としてこれほど大事なことを失念しておったわ! キルレス王とシズェア王にゲンナディーよ、もう少し会議に付き合え」


「ったく仕方ねえな」


「ええ、大切なことですからね」


「アイガイオン王、生誕の地に聖女セシリア様の記念碑を立てたいのですが許可を頂けないでしょうか?」


「うーむ、よし! 許可!」


「ありがたきお言葉!」


 さっきまでの真剣な会話は見る影もなく、わいわいと聖女セシリアの故郷訪問への会議がわいわいと賑やかに始まる。


(王様ってこんな人ばっかりなのかな?)


 なんとなく国の行く末に不安を感じつつ、それよりも一人で故郷であるメトネ村へ帰って聖女は誤解から始まったのであって自分の本意ではないことを家族に伝える予定だったのに、とんでもないセレモニーが行われそうな予感に頭が痛くなってしまうのである。


(どうせ、黙って行けないだろうからって正直に話したのが間違いだったかな。帰る許可さえもらえればよかったのに……それに記念碑ってなんだよ)


 故郷に立つ自分の記念碑を想像し加速する頭痛に頭を押さえつつ、楽しそうに話す王たちの姿を見て一際大きなため息をつくのであった。

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