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第9話 はじめてのクエスト達成?

「そうそう自己紹介がまだだったわね。私の名前はアメリー・パイル、ここのメイデン教会で生活しているの。冒険者さんのお名前も聞いていいかしら?」


「セシリア・ミルワードです」


「セシリアね。素敵なお名前! それじゃあ依頼内容を説明するけどいいかしら?」


 真面目な顔になるアメリ―にセシリアは真剣な面持ちをして頷く。



 * * *



 セシリアが岩でできた崖にある裂け目を器用に使いながらよじ登り、岩から生えている小さな花をそっと抜き取るとポシェットの中へと入れる。

 そのままするすると滑り降りると、下で待っていたアメリーにポシェットに入れた花を取り出して見せる。


 ベルのような形をした小さな白い花が3つ縦に連なった花をまじまじと見つめるアメリーに、不安げにセシリアが尋ねる。


「これで合ってますよね?」


「ええ、リュシュオンフラワーに間違いないわ。本当にありがとう!」


 アメリーが笑顔になって安堵のため息をつく間も無く受けた激しい包容に、手をバタバタさせながらもがいた


「でも小さなやつしかなくて、しかも一個しか採れなくてごめんなさい」


「いいえ、謝ることはないわ。時期的にも開花時期を外れているし見つけてくれただけでも嬉しいのに、取って来てくれたのだからもう感謝しかないわ!

 教会で生活している子供たちにリュシュオンフラワーの話をしたらね、見たい見たい! ってせがまれてついつい安請け合いしちゃって」


 そう言いながら苦笑いをするアメリーにリュシュオンフラワーを渡すと、アメリーはもう一度頭を下げてお礼を言う。セシリアはそれが嬉しいのとちょっぴり恥ずかしいので頬を掻いてしまう。


「親切な冒険者さんに出会えて良かったわ。崖登りも上手でビックリしたもの。さすが冒険者さんだなって感動しちゃった」


「あ、いえ。村ではよくやってたんで慣れていると言うか……」


「さすが冒険者さん! そうやっていつも鍛練してるわけね! しかもその力を困っている人の為に役立てる! なんて素敵なんでしょ!!」


 手を叩いて分かったわ! と感激する姿を見て、木登りや岩山の壁によじ登ったりしてよく遊んでましたとは今さら言えずに苦笑いをするセシリアを見て、照れ笑いをしていると思ったアメリーは満足そうにうんうんと何度も頷く。


「えーと、依頼達成と言うことで、報酬として帰り道を教えてもらえたら嬉しいんですけど」


「ええ、もちろん良いわ! その前にちょっと教会へ寄ってもらえないかしら? セシリアをみんなに紹介したいの。このお花をとってくれた凄い冒険者さんだよ~ってみんなに知ってもらいたいの。子供たちも喜ぶ……ううん、私が紹介したいの。いいかしら?」


「いえ、そんなたいしたことしてませんし」


「そんなことないわ! こうして私が感謝してるんですから、セシリアはたいしたことしてるのよ」


 半ば強引な理論に押しきられ、アメリーに手を取られセシリアは抵抗する間も無く教会へと引っ張られ連れていかれてしまう。


 先ほどはやや遠目で見た教会は近付くとさらに古めかしく見え、中へと入れば薄暗く少し埃っぽい礼拝堂にくすんだステンドグラス、そして歩くたびに軋む床から年期を感じさせる。


 礼拝堂から横へ抜けるドアを開け長い廊下を歩くと台所へと着き。更に奥のドアから外へ出ると四角い建物と、その前で遊ぶ数人の子供たちが現れる。


「シスターアメリー! おかえりなさい!! ん? だれ? この人?」


 子供たちがアメリーを見て走ってくると同時にセシリアを見て不思議そうな顔をする。


「ただいまぁ。ラル、人に指を差してはいけませんよ。ほらほら、ちゃんと紹介するからみんな並んでくださいな」


 初め出会ったときとは全然違うアメリーの落ち着いた態度に驚きつつも、セシリアは自分の前に横一列に並ぶ子供たちへと目を向ける。


「ペイネ!」

「ラル!」

「アラン」

「オトカル」

「デイジーと言います」


 小さな子たち4人が元気に、最後に少し大きな少女が丁寧に名前を名乗ってくれる。


「ねえねえ! お姉ちゃんはだれ? 名前なんて言うの?」


 ペイネと名乗った一番小さな女の子がセシリアの元に駆け寄るとぴょんぴょん跳ねながら聞いてくる。


「えっとね、セシリアって言うんだよ」


「素敵なお名前!! セシリアお姉ちゃんもセラフィア教会に住むの? ね? ね?」


 相変わらず元気いっぱいに跳ねていたペイネはセシリアの手を握ると、いつの間にか小さな男の子のラルも来て二人一緒に跳ね始める


「こらペイネ、ラル。セシリアさん困っているでしょ。それにシスターアメリーの紹介がまだよ。ほら、アランとオトカルもちゃんと並んで」


 いつの間にか端っこにいたアランと呼ばれた男の子を、もう一人の男の子オトカルが手を引っ張って列に戻す。そんな様子を微笑みながら見ていたアメリーがセシリアの背中を押すと、リュシュオンフラワーを掲げる。


「なんとこのリュシュオンフラワーを冒険者セシリアさんが採ってきてくれました!! はい、みんな拍手~」


「おお~!」


 パチパチと手を叩く子供たちが羨望に満ちた眼差しをセシリアに惜しみなく送る。


「お姉ちゃん冒険者なの!? 本当に! すげーっ!!」


 冒険者と言う言葉に反応したオトカルが興奮を抑えきれない様子で拳を突き上げる。ぴょん跳ねるペイネとラル、デイジーの後ろに隠れるアランとニコニコのアメリーに囲まれどうすればいいのかほとほと困ったいたとき、四角い建物のドアがゆっくりと開き、初老の女性が姿を見せる。


「ほらみなさん、お客様が困っていますよ。アメリー、お客様なら客間へ通しておもてなしなさい」


「てへへ、ごめんなさい。ではセシリアさんこちらへどうぞ!」


 アメリーに手を取られ、半場強引に建物の中へと連れて行かれる。王都に出て初めてのクエスト達成は、なかなか終わらないのである。

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