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第84話 姫プレイは恐ろしくもあり魅力的でもある

「勝手に動いてはダメですよオルダーさん! 

 まったく、丸焦げになって帰ってきたときはビックリしたんですからね……だ!!」


 魔王に怒られ、伸び縮みしないはずの鎧の体を小さくして説教を聞くオルダーの両隣で、メッルウとザブンヌも頭を下げて魔王の言葉に耳を傾けている。


「いいですか? わがはいのために動くのは嬉しいですけど命を粗末にしてはいけませんぜ」


 ぷんぷん怒る魔王の放つ、地の底から響くような圧のこもった声にオルダーたちは押しつぶされそうになってしまう。


「……申し訳ございません。ただどうしても聖女セシリアという存在が今後我々の脅威となり得るのか確かめておきたかったのです」


「……」


 オルダーの言葉を聞いても黙って無視する魔王がもたらす沈黙、当の本人は()ねているだけなのだが、オルダーたちにとっては重く地獄のような圧を感じさせる。


「じゃあ、報告するのですだ」


「……よ、よろしいのですか」


「せっかくオルダーさんが遠路はるばる行って調べて来たんです。聞かないのは命を賭けたオルダーさんに失礼でしょう。勝手に出ていったことは許したわけではないですよだ」


「……ありがたきお言葉。魔王様の優しさに感謝いたします」


 魔王の言葉に感銘を受けたオルダーは頭を深々と下げる。


「……ご報告致します。聖女セシリアは人とは思えぬ魔力を保有しており、私との戦闘に置いて全力ではなかったと思われます」


 人間が魔族以上の魔力を保有しているなど聞いたことないし過去の記録にも残っていない。

 さらに魔族の中でも魔力強さも量も多い、三天皇の一人であるオルダーと戦ってまだ余裕のある人間存在などにわかには信じられないと魔王を含め、頭を下げていたメッルウとザブンヌも頭を上げオルダーに驚きの目を向ける。


「……魔力については驚かされましたが、剣技、武術に置いては初心者レベル、時折見せる身体能力の高さは油断できませんが今のところは脅威とまではいきません。ただ……」


 オルダーが言葉を一旦切ったことで、魔王たちはより一層オルダーへ向ける視線を強くする。


「……一番恐ろしいのは周囲の兵を国や立場を越え、聖女セシリアのためにみなが協力して戦うことであると私は感じました。

 全ての者が聖女セシリアのためにと、体を張って守りに攻撃にと全力でサポートするあの姿勢こそもっとも警戒すべきことではないかと」


「そんなにも凄いのですか?」


「……はい。みなが聖女セシリアを姫と呼び一丸となって戦う姿は恐ろしさすら感じました」


 オルダーの報告内容にそれぞれが思いを巡らせる。


「分かりました、今後の侵攻に置いて大変有益な情報をありがとうございます。ですが勝手に出ていって怪我をして帰ったことには怒ってます」


 魔王の放つ圧が強くなりオルダーは身を縮め頭を下げる。


「バツとしてフィーネ島へ戻り大陸に渡る準備をしている者たちを守護しつつ準備を手伝うのです。そして傷が()えるまでは前線にて戦うことは許しません!」


「……それでは罰に、い、いえ申し訳ありません。このオルダー、魔王様の命に従い民の手助けに全力を尽くします」


 意見を言おうとしたオルダーだが魔王が赤く輝く目でにらみ圧を強めたことで、オルダーは慌てて頭をさらに深く下げて命に従う意思を見せる。


「メッルウさんとザブンヌさんも今回の件ご存じでしたよね?」


 二人を赤く光る目でにらんだ魔王が手に持つ魔剣を強く握り、全身から魔力を濃く噴出すると部屋に瞬く間に魔力が充満し三天皇に圧し掛かる。


「いいですか? 今回はオルダーさんだけがバツを受けるわけですが、あなた方にも非があること忘れてはなりませんよ」


「「「はっ」」」


 以前と違い、日頃は穏やかで魔力による圧を放たない魔王がここぞというときに放つ圧は凄まじく三天皇は冷や汗をかきながら返事をするのが精一杯となる。


「では、お話はここまでです。せっかくグラシアールのご厚意で国の一部を自由に使わせてもらっているのです。民を一時的に住まわせつつ目的地を見つけるためにも次の国へと向かう移動の準備を行います。各自準備をするように!」


 魔王の言葉に三天皇はより深く頭を下げ返事をすると部屋を出ていく。


 ドアが完全に閉まって気配が遠のいたことを確認した魔王は大きくため息をつく。胸元から煙が上がると縦に線が入りゆっくりと開く。

 漆黒の鎧の中にはレバーやスイッチ、ボタン類が並んだコックピットの座席に座る少女は、金色の前髪をかき上げながら漆黒の鎧が握る魔剣タルタロスに目を向ける。


「やはりわたくしが頼りないからでしょうか? 部下が勝手な行動をするなどお父様のときは考えれませんでしたもの」


 ドルテの言葉に反応して魔剣タルタロスがカタカタと刀身を震わせる。


『逆だと俺っちは思うがね』


「逆? ですか?」


 ドルテは首を傾げ魔剣を赤い瞳で不思議そうに見つめる。


『魔王自ら出向いて一国を制圧しちまったわけだ。部下としては手を煩わせしまい不甲斐ないとの思いから、魔王様のお役に立ちたいと奮起した結果だと思うがね。まあ、勝手に動いたってことに変わりはねえけどよ』


 魔剣タルタロスの言葉に頷くドルテは再び三天皇が去ったドアの方を見ながら、自身の頬に手を置いて小さなため息をつく。


「上に立つとは難しいものですわね。お父様はこんなことを数百年もやってらしたのですね。改めて尊敬致しますわ」


『アルバンのおっさんも結構苦労してたけどな。まあいきなり魔王になった割には姉ちゃん頑張ってる方だと思うぜ』


「そうでしょうか」


 自信なさげに呟くドルテにカタカタと音を立て魔剣タルタロスが頷きながら小さな声で呟く。


『それにしても剣を操る聖女ねぇ……知り合いじゃないことを祈りたいもんだぜ』



 ***



「オルダーすまない」


「……気にすることはない。私が勝手にやったことだ。メッルウは関係ないだろう」


 メッルウが頭を下げるのを諌めるオルダーは首をゆっくり振って答える。


「だが聖女セシリアを探った方がいいって発案者はあたしであって、それをオルダーが代わりに行ってくれたわけだし。責任はあたしにある」


「……大陸を高速で移動できるのはメッルウと愛馬グラニーのいる私だけだ。メッルウは前回魔王様に注意された身だから二度目はまずいだろう。であれば私が行くのが道理だ」


 唇を噛み何か言いたげメッルウよりも先にオルダーが声を出す。


「メッルウのおかげで聖女セシリアの危険性がよく分かった。魔力による力だけでなく人の中心となり戦う姿は私たち脅威となるのは間違いないだろう。

 だがそれと同時にあの戦い方は魅力的でもあった。私たちも魔王様のためにあのように尽くし戦いたいものだ」


 オルダーは何度か頷くとザブンヌとメッルウに目をやる。


「……ザブンヌ、お前と同じく体を鍛え筋力に特化した者やメッルウのように炎を操る者など人にも面白い者がいる。たかが人だと慢心せずに行くべきだと私は感じた」


 仮面の顔では笑みを作ることは出来ないが、どこか笑みを浮かべたような雰囲気を出しオルダーは二人に背を向けると歩き出す。


 遠ざかって行くオルダーの背中を見送るメッルウはどこか寂しそうに見える。そんなメッルウの横にいるザブンヌがオルダーの去った方を遠い目で見ながら声を掛ける。


「フィーネ島に残る者の多くは戦闘力が低い。守備兵こそいて守ってくれているが、オルダーがいてくれればこれほど心強いことはないだろ。

 それに俺らもこのグラシアールを出発して目的地へと向かわなければいけないから、後方が手薄になることを考えるとオルダーを後方に配置するのは理にかなってると思うがな」


「魔王様はそこまでお考えになって……そんなにもあたしたちのことを考えて下さっている魔王様になんて勝手なことを」


「所詮俺らなんぞ魔王様の足元にも及ばない。ならば余計な気を使わず魔王様の言葉に耳を傾け全力を尽くすことが恩に報いることになるのだろうな。オルダーが言っていた魔王様のため尽くし戦うってやつだ」


「ああ、そうだな」


 ザブンヌとメッルウは大きく頷き合い、魔王への忠誠心を強くするのであった。

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