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第83話 火を灯して敵を討つ

 一人ではなんてことのない攻撃も五人も同時に前後左右から受けると、ダメージはなくとも行動に制限をかけることぐらいはできる。


 混合軍の兵を一気に吹き飛ばしたオルダーの両腕をニクラスとミルコが掴み抑え込む。


「……他の人間よりも力が強いがそれぐらいで私を止めれるなどと思うな」


 両腕にまとわりつくニクラスとミルコを振り払った瞬間に、セシリアが聖剣シャルルを振り降ろす。


 オルダーの銀の鎧に火花が散り縦に大きな傷が入る。


「……やる。だが」


 オルダーが反撃に剣を振るうが、アトラの影に引っ張られ真後ろに逃げたセシリアには届かずに剣先は空を切る。だが、剣を振るった際に空間に僅かな隙間を生み出し押し出される空気によって生み出された斬撃を飛ばし追撃がなされる。


「させん!」


 グンナーの剣が弧を描くと斬撃をセシリアから逸らし追撃を阻止する。その間に次なる攻撃のためオルダーは姿勢を低くし、僅かに浮かせた足の裏側にスキル『虚空《こくう》』を発動させると、押し出された空気の反動を利用して一気に加速しセシリアに向かって地面スレスレを飛んでくる。


 だがそれは、間に割り込んできたジョセフのレイピアに乗せたスキル『潤滑(じゅんかつ)』によって僅かに逸らされ勢いを殺されてしまう。


「っ!? カッコよく受け流せる威力じゃありませんね」


 オルダーの攻撃の軌道を僅かに逸らせ勢いは落ちたものの、凄まじい威力に弾かれ吹き飛ばされたジョセフが起き上がりながら後方を見ると、ロックと大勢の兵たちがオルダーの前に立ち塞がる様子があった。


「てめえら、セシリア様を守れ! 気合入れろよ!!」


「「「「おおおっ!!」」」


 ロックの指示で兵士たちが大盾を構え、弾丸のごとく突っ込んで来るオルダーの攻撃に対し防御を固め迎える。


 オルダーの攻撃を受けボーリングのピンみたく吹き飛ぶ兵士たちだが、その隙にロックの槍がオルダーの顔面を捉え額に穂先が突き立てられる。


「かっ、かてえええっ!! ええい!! 右の陣かかれっ!」


 オルダーの硬さに腕が痺れてしまうロックの合図でロックの右側にいた兵たちが一斉に剣を振るう。


「続いて左っ!」


 と言いながらオルダーの後ろを指さすロックの合図で後方の兵が一斉に槍を突き出し、オルダーの背中に穂先を突き立てる。

 オルダーの硬さに手が痺れる者や槍を落としてしまう者などもいるがそんなことは構わず、続けて左側から前方に盾を構えた兵たちが突進してきてオルダーにタックルをする。


「……さすがにうっとしい」


 オルダーが突進して来る盾の兵たちを強引に弾いたとき、冒険者たちの構える盾の上を駆けてきたセシリアが翼を広げ飛び上がり剣を振り降ろす。


「……ぐっ、この魔力……さすが聖女というところか」


 上から飛び降りてきたセシリアの攻撃を受け止めたオルダーだが、受け止めた後で未だ空中に身を置くセシリアの持つ聖剣シャルルが魔力を噴射し、オルダーを強引に押していくとその勢いに押されオルダーの膝が曲がっていく。


『セシリア、せーのでいくのじゃぞ』


『私の方でもコントロールしますので思いっ切りいってください』


 聖剣シャルルを必死に握るセシリアの頭のなかでアトラとグランツの声が響き、セシリアが小さく頷くと口はきゅっと閉めたままアトラと一緒に心で(せーの)と呟く。


 そのまま押し切るかと思われたセシリアが、聖剣シャルルの魔力噴射を突然やめたせいで、押えつけられる力に抵抗していたオルダーは力が抜け体制を大きく崩してしまう。

 それと同時に翼を真横に広げ影がセシリアの頭の辺りを掴み引っ張る。

 頭から地面に落ちる形なるセシリアだが、地面に当たる寸前で翼を膨らませバランスをとりつつ、影はセシリアの体を受け止めながら回転させ足を地面に誘導し立たせる。そのタイミングで聖剣シャルルが魔力の噴射を再開すると、剣先がオルダーの体に深く食い込みながら勢いよく振り上げられる。


 空中でバク転し地面スレスレから剣を振り上げる聖女セシリアの華麗な剣技と、オルダーに大きく攻撃が通たことに周囲のテンションは最高潮に上がる。


「……これほどまでとは。だがっ!」


 胸の傷を見たオルダーのもとに闘技場の端で座り込み微動だにしなかった鎧馬が起き上がると、鎧馬を警戒し囲んでいた兵たちを吹き飛ばす。そのまま石畳を削りながら駆けて来る鎧馬に飛び上がったオルダーが騎乗するとそのままセシリアに突進する。


 聖剣シャルルでガードしたセシリアだが大きく後ろに吹き飛ばされるが、翼を広げ空中でバランスを取ると観客席に降り立つ。


「面白そうなことしてるじゃねえか」


「面白そうと言うのでしたら、あなたは参加しないんですか?」


 観客席に降りたセシリアに声を掛けるのは肩に剣を立て掛け座るフェルナンドだった。


「俺は群れて戦う柄じゃねえし。俺がいなくともどうにかできるだろ?」


 鼻で笑いながら他人事みたいに言うその姿にカチンと来たセシリアがフェルナンドをにらむ。


「ちょっと自分の攻撃が効かなかったからって()ねているのですか?」


「ああん? ()ねるだぁ? そんなわけねえだろう」


 顔に苛立ちを浮かべにらみ返すフェルナンドの鼻先にセシリアが指をさす。


「いいえ()ねています。つい先日は気に入らない相手は燃やし尽くしてやるうっとか言ってたのに、ちょっと強い敵が現れたらこれですか?」


「なんだと」


「好きな女は惚れさせて抱くでしたっけ? いじけて座っている男に誰が惚れるんでしょうね」


「ぐっ、てめえ。いくら聖女だからって調子に乗りやがって、いい加減にしろよ! 俺の技は広範囲に及ぶから集団戦に向かねえだけだ」


「へー、力も使いこなせないのにナンバー(ワン)を名乗っていたのです?」


「ぐぐっ……言わせておけばぁっ!」


「私に怒ってどうするんです。その握った拳を向ける相手はあっちでしょう」


 拳を握って怒りを(あら)わにするフェルナンドに対しセシリアが闘技場で馬に乗って走り回るオルダーを指さす。

 そしてそのまま観客席の手すりに飛び乗ると後ろを振り向きフェルナンドを見る。


「そこに座って見てればいいです。この戦いが終わったときにナンバー(ワン)を名乗れるならですけど」


 それだけ言うとセシリアは翼を広げ闘技場へと飛び下りる。取り残されたフェルナンドはセシリアのいなくなった空間をしばらく凝視していたが、剣を握るとゆっくり立ち上がり剣を肩に担ぐ。


「言ってくれる。俺を誰だと思ってる」



 ***



「ちょっと言い過ぎたかな?」


『足りないくらいなのじゃ! もーときつく言う権利がセシリアにはあるのじゃ』


『あの強引さをワイルドだとか、そんな勘違いしてるヤツです。礼儀も知らぬ者にあれくらい言ってやるべきです』


 観客席から飛び降りながらちょっぴり言い過ぎたかと後悔するセシリアに、アトラとグランツがフォローを入れる。


『うむぅ、あのタイプはキツめに発破を掛けてやるのが一番だが……まあいいか』


 ちょっぴり歯切れの悪い聖剣シャルルを構えたセシリアが闘技場に降り立つと、セシリアへの攻撃をさせまいと兵や冒険たちが立ち塞がるが、暴れる鎧馬の前に次々と吹き飛ばされていく光景が広がっていた。


 ニクラスとミルコにジョセフが前線で鎧馬に攻撃を繰り出し、ロックの指示により的確に動く兵たちによって陣形保ってはいるが限界が近いのはセシリアの目から見ても理解できた。


「うわっっと」


 翼を広げ影を滑らせ鎧馬の突進を避けつつ、馬上で振るわれるオルダーの剣を受け後ろへと下がってしまうセシリアの目の前に火の玉が落ちる。


「人に偉そうなこと言ってその様か? ったくてめえらはバカか! 馬に攻撃が効かねえらやりようはあるだろうが」


 セシリアの前に立ち燃え盛る剣を構えたフェルナンドが剣を地面に突き立てると、セシリアの手を引き抱き寄せセシリアに向かって来る鎧馬の突進を避ける。


 フェルナンドが指を鳴らすと、先ほど剣を刺した地面が爆発する。


 爆発ごときの衝撃は大したことないが、地面が大きく(えぐ)り穴が空けば足を取られるのは物理的にはどうしようもない。

 鎧馬が前足を取られ転倒しそうになるのをなんとか堪えるが、ニクラスとミルコが両サイドからバランスを崩した鎧馬に抱きつき抑え込む。それに続き兵や冒険者たちが鎧馬にしがみ付く。


 鎧馬の背に立ち蹴って飛び上がったオルダーにグンナーが剣を振り降ろす。それを剣で受け止めたオルダーだが、グンナーは剣を引き鞘をぶつけ更に空中で回転し再び剣を振り降ろす。


天鳴龍(てんめいりゅう)三爪(さんそう)』  


 流れるような三連撃に加え、高度が落ちたオルダーに向かって飛び上がったロックとジョセフが同時に槍とレイピアを振り降ろしてオルダーを空中から地面へと押しやる。


 落ちてきたオルダーに兵や冒険者たちが次々と飛び乗る。


「……人間どもめ、うっとしい!!」


 声を荒げ強引に立ち上がったオルダーが兵や冒険者たちを吹き飛ばす。バラバラと人が空中から落ちてくる光景をにらむフェルナンドの服をセシリアが引っ張る。


「炎で囲んでください」


「あ?」


「魔力を完全集める時間がありません。フェルナンドさんの力を貸してください」


 ジッと見るセシリアの紫の瞳に映るフェルナンドがフッと笑う。


「仕方ねえな。貸してやるよ」


「あ、貸すって言葉の綾ですからね。実際は返しませんよ」


「口の減らない聖女だ。構わんさ、俺の炎をどう使うか見せてみろよ!」


 ニヤッと笑うフェルナンドと微笑むセシリアが互いの笑顔を見せ合うと、フェルナンドが全身から炎を吹き出し剣に集めると豪快に剣を振るう。


 振るわれた剣から放たれた炎の斬撃は円を描き、オルダーを囲む。


「……この程度の炎はどうということはないが」


 オルダーが仮面に光る黄色く光る目を動かし周囲を探る。オルダーが今感じているのは炎の壁の向こうにいる聖女セシリアの存在だけである。

 その他の攻撃はダメージにならない、動きを押えに来る可能性もあるがその場合聖女セシリアは攻撃を放たないことが分かっていたオルダーはセシリアの魔力に集中する。


「……魔力を感じないだと」


 正確には微量に感じてはいる。感じるのだが一つに集まっていた魔力がバラバラになって別の魔力を放っているような違和感。

 オルダーを囲むフェルナンドが放った炎にも魔力を感じ周囲を探るのを阻害するが、それが問題ではないことは理解できてもバラバラになった魔力の意味が分からないオルダーは警戒する。


「うおおおおっ!!」


 雄叫びと共に炎の壁を突き破って入ってきたのはミルコである。そしてその背中にしがみ付いていたセシリアが飛び降りると聖剣シャルルを構える。

 魔力をかき集め自身の力へと変換する力を持つ聖剣シャルルは、フェルナンドの炎を全て取り込み刀身を紫の炎で包む。


 眩くそして豪快に燃える紫の炎を宿す聖剣を構える聖女セシリアの姿に誰もが目を奪われる。それはオルダーも同じであり、目の前の光景に見惚れてしまう。


(……これほどの魔力を持つ人間とはいったい……)


 聖剣シャルルを構えるセシリアに白い光が集まり翼が生え、影が濃くなるとセシリアは勢いよく剣を振り上げる。


 放たれた炎の斬撃はフェルナンドが放つそれとは比べもにならない一撃であり、闘技場の石畳を破壊しながら進む。

 剣で受け止めるオルダーだが抵抗できたのは一瞬、炎の斬撃に巻き込まれ闘技場の壁に激突し真横に走る火柱に消える。


 壁に大きく空いた穴がセシリアが放った一撃の凄まじさを物語っている。


 もうもうと壁から立ち上がる煙にこの戦いの結果がどうなったのかをみなが固唾を飲んで見つめるなか、ブフッと鎧馬が鼻息を吐くと勢いよく駆け空いた穴に飛び込み、黒く焦げたオルダーを口にくわえると観客席に飛び上がり隙間から外へと走り去って行ってしまう。


「逃げられちゃいましたが、私たちの勝ちですね」


 セシリアが聖剣シャルルを地面に突き立て静かに勝利宣言をすると、会場は今日一番の歓声で埋め尽くされる。

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