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第80話 聖女セシリア様降臨

 決勝戦の最中突然現れ、聖女セシリアに会わせろと言うフルアーマーに身を包むオルダーに一番最初に反応したフェルナンドが燃える剣を振り降ろす。

 セシリアのいるバルコニーを見上げていたオルダーは馬に乗ったまま、燃え盛る剣を素手で摘まむ。


「……魔力を付与した剣か。この程度では私に傷をつけることはできない」


 摘まんだ剣を引っ張りフェルナンドを放り投げると、投げられたフェルナンドは壁に激突する。


「……ふむ、その太刀筋、称賛に値する。久しぶりに心動かされる剣閃を見た」


 フェルナンドを投げた隙に放ったグンナーの剣を手で掴んだオルダーが、声の響きに抑揚はないが感心したように呟き、驚きを隠せないグンナーも放り投げ壁に激突させる。


「ふざけるなぁあっ!!」


 怒号と共に壁が爆発し爆発の勢いで炎を纏うフェルナンドがオルダーの真後ろから突進してくるが、オルダーは振り返ることなく鎧の馬が重心を前に傾けると後ろ足で突進するフェルナンドを蹴り飛ばし観客席へと弾き返す。激突した衝撃で派手な音と共に土埃が舞い上がる。


 突如現れたフルアーマーの人物が圧倒的に強いということは、冒険者一位と二位が同時に挑んで歯が立たないことで誰が見ても理解できた。


 鎧の馬に乗ったまま一歩も動かずフェルナンドとグンナーをあしらったオルダーの堂々としたたたずまいに感じるのは恐怖。


 会場にいる観客の誰しもの顔が引きつり、何かの切っ掛けで緊張の糸が切れればパニックになる寸前なのはセシリアも肌で感じていた。

 隣にいる王も驚きつつ、得体のしれない敵に恐れの色を濃く顔に出す。周囲の兵たちが緊張した面持ちで王を避難させようと集まってくる。


 もちろんセシリアにも兵がやってきて避難の誘導を始めようとするが、聖剣シャルルを抱きかかえたまま大きくため息をついたセシリアが立ち上がると、周囲を見渡す。


「すいません。メガホーとラーヘンデルのお茶の葉を沢山いただけますか?」


 セシリアが立ち上がり恐怖で振るえる世話係の女性に声を掛けると、女性は頷いてバルコニーから廊下へ出てお茶の葉を取りに行く。


「セ、セシリアどうする気だ?」


「なんとかしてあの方に帰ってもらおうと思います。闘技場には五大冒険者や冒険者の方々もいますしなんとかなるでしょう」


 アイガイオン王のと問いに淡々と答えつつも不安でいっぱいのセシリアはメガホーを手にバルコニーの柵の上に立つ。下を見るとかなりの高さがあり、じっと見ていると目眩がするが、セシリアの足元では影がしっかりと足を持って支えてくれているので落ちる心配はない。常に一人でないことは異常事態でも心にゆとりをもたらしてくれる。


 大きく息を吸ってメガホーに向かってなるべく静かに、でも力強く声を出す。


「これより魔族との戦闘を行いますので会場内は大変危険な状態になるかと思われます。この場から避難される際には誘導に従って、決して慌てず静かにお願いいたします」


 会場に響くセシリアの声にオルダーも含め全ての視線が集まる。柵に立つセシリアのもとに世話係の女性が戻ってきてラーヘンデルのお茶の葉の入った瓶を手渡す。


 セシリアはお茶の葉に自分のスキル『広域化』を掛け瓶を空中へ投げると、聖剣シャルルを抜き瓶を切り裂き中に入っているお茶の葉を上空から観客席にばらまく。


 ラーヘンデルの持つ作用はリラックスと安眠効果。空中からふわふわと舞い落ちる紫の光はパチパチと音を立て弾け同時に香りが観客席に振り注ぐ。

 広域化こそ掛かっているがさすがに会場全体にまで範囲を広げることは出来ないため、魔力に乗せ会場にばらまいたお茶の葉の効能も僅かしかない。

 だが仄かに薫るラーヘンデルの香りを聖女セシリアが放ったことが大事なのである。ラーヘンデルの作用もあるが聖女セシリアの落ち着き払った姿にパニック寸前だった会場は瞬く間に落ち着きを取り戻していく。


 静かにバルコニーの柵の上に立つセシリアが白い光に包まれ、背中に白い翼を広げたとき人々は絶望から一転、会場は聖女セシリア様の名前を呼ぶ人で溢れる。


 聖剣シャルルを全力で放つためにも避難して欲しいのになと、セシリアは困った笑いを浮かべるがそれも観客からは落ち着いた勝利への微笑にしか見えなかった。


 翼を広げ静かに闘技場に着地する聖女セシリアの姿に観客が湧くなか、セシリアが聖剣シャルルを左手に持ち、右手でスカートを摘まむと頭を下げる。


「はじめまして、セシリア・ミルワードと申します。私に用事があるとのことですが、それでしたら訪ねる方法はもっとあったのではないですか?」


「……私の名は『虚空(こくう)』のオルダー。突然の訪問については申し訳ない」


「では、私に何用でしょうか?」


「……聖女が魔王様の脅威となりうるのかを確かめにきた」


 それだけ言うとオルダーが鎧馬の手綱を引き、セシリアは聖剣シャルルに手を掛ける。


 馬が荒い鼻息を一つ吐くき、地面を何度か蹴って威嚇すると、頭を低くしセシリアに向かって突進する。

 対するセシリアは聖剣シャルルに手を掛けたまま翼を広げると、影を滑らせ大きく後ろに下がる。


 攻撃を避けられ、急ぎ前脚で急ブレーキを掛ける鎧馬の前にロックとジョセフが立ち塞がる。


「さて俺らでどれだけもつかね」


「倒れたらあなたを転がして、脚を引っ掛けるくらいには使ってあげますから安心して倒れてください」


「んだと!」


 言い合いながら二人が同時に攻撃を放つが、避けることもなく鎧馬は顔面で受け止める。

 攻撃が全く通らないことに対し同時に舌打ちをする二人が次に放つ攻撃を無視したオルダーは自ら後ろに下がったセシリアを目で追う。


 ロックとジョセフが飛び出して来た際に、他の冒険者たちも闘技場に集まって来ていた。そして彼らが行うのは自らが敵を倒すのではなく、聖女セシリア様を守り攻撃を補佐する助ける戦い。

 冒険者たちが壁となりセシリアを隠してしまうゆえに、オルダーの目には冒険者たちしか映らず、セシリアの姿を必死に探すことになる。


「……なんだこの膨大な魔力は」


 闘技場に集まった冒険者たちに隠され見えない場所から感じる膨大な魔力を前に仮面であるオルダーの顔は、表情こそ変わらないがどこか焦りの色を見せる。


(……魔力の位置から大体の場所は把握できるが、この人だかりのなか聖女セシリアはどう攻撃を放つ)


 仮面の下で光る目で追うオルダーの視界をロックとジョセフの攻撃が遮る。ダメージはなくとも遮られる視界にオルダーが手を伸ばし攻撃を払う。


 二人がオルダーの注意を逸らしている間に、セシリアは攻撃に転じる。

 セシリアの低いジャンプ力を補うのは冒険者たち。影のアシストを受け飛んだセシリアの目の前に四つん這いになってなる冒険者を踏みさらに上に飛ぶ。

 踏んだとき冒険者が顔を赤くしていたことには気づかない振りをして飛び上がったセシリアは、別の冒険者が中腰で上に構える盾を踏み人の頭くらいの高さに飛んだセシリアが冒険者たちが上に向かって構える盾の上を足場にオルダーに向かって駆けると聖剣シャルルを大きく振りかざす。


 ロックとジョセフを投げ飛ばしたそのとき、目の前に現れたセシリアに黄色く光る目を大きくする。

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