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第79話 決勝戦に現る虚空

 準決勝二戦目はグンナーとジョセフによる攻撃の流し合い。

 弧を描くグンナーの剣閃を流しつつ、線を引くジョセフとの剣閃の応酬は鋭さを増していくグンナーの剣閃がジョセフのレイピアを折ったことで均衡が崩れる。


「剣を折られても尚も立ち向かう闘志。冷静沈着で引き際をわきまえているジョセフをそうまで必死にさせる……セシリア様へ気持ちは本気と言うわけか」


「ええ、あの方への思いを伝え必ずや添い遂げてみせます」


「ふっ、剣の道のみに生きようと、ただ強さを求めた俺に光を下さったあの方への恩、そして胸に芽生えたこの気持ちを伝えるためにもここを譲るわけにはいかないな」



 ***



『──と言ってますよ』


「いちいち言葉を拾って伝えなくいいから。あぁなんだか寒気がする……」


 グランツが離れた場所にいるグンナーとジョセフの会話を拾ってセシリアに伝えると、自分と添い遂げると言うジョセフのセリフにセシリアはおぞましさを感じ体を震わせる。


「全く、添い遂げるとか勘弁して欲しいよ。こっちの気持ちも考えて欲しいものだよ」


『のじゃのじゃ。わらわみたくお互いを知ることから始める、そんな謙虚さが大切なのじゃ』


 いきなり結婚してくれとかアトラ言わなかったっけ? と言いたい気持ちを抑えつつバルコニーの柵から戦いの行く末見守る。


『観客の投票結果次第では誰がセシリアと一緒に過ごせるか未知ではあるが、セシリアは誰が来て欲しいのだ?』


「誰も嫌なんですけど」


『まあそう言わずにここまできたら、どう楽しく過ごすかを考えた方がいいと思うがな。そのためにもグランツに声を拾ってもらい伝えてるわけだ』


「それが余計なの。それに楽しく過ごせとか言って、どうせ困ってる私の姿を見て萌え萌え言うんでしょ」


『理解が早くて助かる』


「はぁ~もうね、私のために戦うとかやめてくれないかな。あぁ~もうヤダヤダ」


 セシリアは嫌な気持ちを振り払うために首を横に振る。



 ***



 グンナーが剣を鞘に納め構え、ジョセフも折れたレイピアを構える。互いに譲らないそんな思いからの戦いはどちらかが一歩踏み出せば決着がつく、怪我や命が散ることも辞さない二人の覚悟は緊張感を生み出しそれは観客をも飲み込む。


 レイピアの折れているジョセフが不利であることは本人がよく分かっていた。それでも負けるわけにはいかないと意地になるジョセフが、グンナー越しにセシリアのいるバルコニーを視界の端に入れる。


 そこには首を横に振るセシリアの姿があった。


 ジョセフはレイピアから手を離し両手を上げる。レイピアが石の上で転がる音が会場に響く。


「私の負けです」


 そう言ってグンナーに頭を下げるとセシリアの方を見て笑みを浮べる。


(セシリア様は引く勇気も大切だとおっしゃった。私としたことが冷静でありませんでした)


 グンナーの勝利が宣言されるなかジョセフは自分を止めるために首を横に振り、今じっと見つめるセシリアの姿を目に焼き付け消えないようにと目をそっと閉じる。


 セシリアが不思議そうに「あれ? なんでジョセフさん戦うの止めたの?」とジョセフの方を見て聖剣シャルルに尋ねていることも知らずに。



 ***



 決勝が行われる前に一戦目敗退した者たちによるトーナメントが行われ、ニクラスとロックが戦った結果ロックが勝者となり五位が決まる。

 続いて行われたジョセフとミルコによる三位決定戦ではジョセフが勝ち、三位と四位が決定する。


 そして始まった決勝戦。


 フェルナンドの放つ炎の軌跡をグンナーの剣が鋭く切り裂く。互いに体を回転させ剣と剣がぶつかり火の粉が派手に散った瞬間に二人の姿はそこにはなく、次の一撃を互いに放つ。力で行けばフェルナンドの方が上だが、スピードはグンナーの方が勝っている。


「炎を切り裂くとは相変わらず面倒くさい野郎だ」


 フェルナンドが剣を振るい周囲を炎で囲うが、それをいともたやすく切り裂き間合いに入ってくるグンナーに対し、フェルナンドが面倒くさそうな表情で剣を受ける。


 再び剣と剣が炎を散らしながらぶつかり合う。


「聞かせろよグンナー。あれほど剣の道にしか興味がなかったお前を惚れさせるあの女の魅力ってやつをよ」


「剣の道に他人は必要ないと、自身を高めることだけに生きてきた俺は、騙されたとは言え道を誤った。それを責めるのではなく、セシリア様のためにその力を使えと言われ心を惹かれない道理はないだろう?」


「まどろっこしい。気に入った女は抱くそれだけだろ?」


「ふっ、フェルナンドはまだセシリア様の本当の魅力に気付いていない。まあ、俺も全部知ってるとは言えないがな」


「はっ? その年になるまで女を抱いたこともない童貞野郎が綺麗どこ見て色気づいたってだけだろ。今更恋愛とかやめとけ」


「だれしも初めは童貞。そこに恥じらいを持つことこそ恥」


「……っと、一瞬いいこと言ってると勘違いしそうになっちまったじゃねえか。そもそもあの女は俺が抱くからお前にチャンスはねえよ」


 このやり取りの間も激しい剣の応酬は続いており、観客は二人の攻防に釘付けになって会話をしていること、ましてセシリアの話からどうでもいいことを話しているなどは想像もしていない。

 バルコニーの上でやや青い顔で涙目で震えているセシリアを除いてはだが……。


「お前との決勝戦も何回目だ? いい加減俺を超えれないことに気付けよ!!」


 フェルナンドが使うスキル『猛炎(もうえん)』は武器や鎧に炎の属性を付与する、いわゆるエンチャント系の魔法。

 自身の装備するものに炎を宿し相手を攻撃することで、斬撃や衝撃に熱のダメージを追加させる。そして『猛炎(もうえん)』の精度を高めたフェルナンドは重ねがけすることで炎の濃度を高め、さらに衝撃をくわえることで爆発を起こすことが可能となる。


 グンナーの剣が重なった瞬間激しい光が放たれ轟音と共に爆発が起きる。前大会でグンナーを倒した技は前よりも威力を増しておりフェルナンドの成長を証明している。そのことに満足そうに微笑むフェルナンドと、それを超えれることに微笑むグンナー。


 一撃目の剣が爆発を切り裂き、鞘による二撃目で切り裂いた爆発を弾く。


「なにっ!?」


 剣と鞘による二連撃が自分の爆発を打ち破ったことに驚くフェルナンドは、更に体を回転させ一撃目の剣が自分向かっていることに驚愕(きょうがく)する。


 何とか反応して剣で受け止めたフェルナンドだが、勢いに負け大きく後方へ下げられ膝をつく。


「三重の攻撃『天鳴龍(てんめいりゅう)三爪(さんそう)』。セシリア様の技よりヒントを得た三段構えの技だ」


「ちっ、調子に乗るなよ」


 絶対無敵と言われたフェルナンドが膝をつき、試合が大きく動いたことに観客が湧く。


「俺にこの技を使わせるとは褒めてやる」


 フェルナンドの装備する鎧が赤く発光し始めると炎が灯る。燃える鎧に身を包み燃え盛る剣を握るフェルナンドを前にグンナーが静かに鞘に納めた剣を手に抜刀の構えを見せる。


 会場の緊張感が頂点に達したとき、闘技場に入る門がゆっくりと開き始める。

 決勝戦の最中に予定にない出来事に進行役のカールやスタッフたちが慌てて扉に駆け寄るが、開いた扉から現れた鎧の馬に乗った全身鎧に身を包む人物の存在感に押され立ち止まってしまう。


 その存在感は試合中のフェルナンドとグンナーも手を止め鎧の人物に注視する。


「……取り込み中のところ申し訳ない。我が名は『虚空(こくう)』オルダー。我が主である魔王様の命により聖女セシリアとお会いしたい」


 二本の角があるひし形の兜に顔を隠す仮面、銀に金の文様が施されたフルアーマーの継ぎ目には分厚い布が隙間を埋め、一切肌を見せない全身を鎧の人物は(から)の容器の中で話して反響する独特な声で名を名乗りバルコニーの方に仮面の奥に光る目でバルコニーの方を見る。


(……既に臨戦態勢を取るか。既に私が来ることを感知していたということ……メッルウが警戒するのも頷ける)


 バルコニーの柵の前に立ち聖剣シャルルを抱きしめた聖女セシリアと思われる人物が、自分を見下ろしていることにオルダーは感心していた。

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